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小説

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異形ひしめく船上都市での群像劇『バラックシップ流離譚』他連載中
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2020年1月の記事一覧

『バラックシップ流離譚』 アリフレイター・3

この話の1へ
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 ゼラーナの食は細い。
“食べられるときに食べておく”生活が長かったせいか、空腹をあまり感じず、すこしの量でも長く活動できるよう身体が適応しているのだろう。
 そうしたわけで、最近のお気に入りの店は「下層寄りの中層」にある酒場〈堕薔薇〉だった。
 職人外の人気店〈酔鯨〉などは、たしかに安くて旨いのだが、すこし賑やかすぎるところがゼラーナの好みからは外れる。
〈堕薔薇〉の店

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『バラックシップ流離譚』 アリフレイター・2

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 ゼラーナの表の顔は、仲買人兼鑑定士だ。
 誠実な仕事でコツコツ積み上げた仕事というのは馬鹿にならず、信頼や信用はいい隠れ蓑になる。
 希少性操作能力を使えば大きな儲けが期待できるが、無論のこと危険も覚悟しなければならない。
 変装し、偽名を使い、立ち居振る舞いも仕事のたびに変えている。
 能力で商品の価値をはねあげると、大抵の相手は目が眩み、それを持ってきたゼラーナのことはほとんど印

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『バラックシップ流離譚』 アリフレイター・1

序文へ

 船上に築かれた『居住区』は、区画による差異はあるものの、概ね上層へいくほど豊かになっていく傾向がある。
 美術品や嗜好品の類も、アンダーグラウンドで流通するものを除けば、そのほとんどが上層で取引される。
 ヤビカ・カビニェの経営するカビニェ宝石店は、そうした店のひとつであり、悪趣味一歩手前で踏みとどまっている豪華な看板と、品質の確かさにおいては人々のよく知るところだった。
 その応接室

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