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小説

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異形ひしめく船上都市での群像劇『バラックシップ流離譚』他連載中
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2019年3月の記事一覧

『バラックシップ流離譚』 美しき剣・2

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 居住区下層にある岩盤住居街――その一画。
〈暁闇の牙〉――かねてから反乱を準備しているとの疑いがあった新興組織のアジトである。
 蛙人《フロギー》の商人を締めあげ、取引相手が彼らであるとわかってからの、憲兵隊の動きは迅速だった。
 居住区の住人には知られていない、秘密のルートを通じて各部隊にレギルの命令を伝達し、一時間と経たぬうちに戦力を結集させた。
 甲板での取引が潰されたとあれば

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『バラックシップ流離譚』 美しき剣・1

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 レギル・フォルカーは自分の顔が嫌いだ。
 輝くばかりの金髪。
 白磁のような肌。
 まるで絶世の美女、と形容されるほど整った面構え。
 だいたいが、容姿が美しいからなんだというのだ。
 ‟彼”は〈幽霊船〉の憲兵隊を率いる身である。
 恐れられこそすれ、愛される存在ではないし、そうあるべきとは断じて思わぬ。
 なまじ美形であるばかりに、トラブルの種を招き寄せることも多かった――というか、

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『バラックシップ流離譚』 見習い魔女さんはトカゲ男に恋をする・3

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ウィスキア緑洞の冒険
 大丈夫――そういわれたところで、オレはにわかに信じる気にはなれなかった。
 人族の十四歳といえば、まだ半分子供だと聞いている。しかも蜥蜴人《サウラ》とはちがい、メスの筋力はオスよりもだいぶ劣るものらしい。
 もちろん彼女は魔女だから、前に出て敵と直接殴り合ったりはしない。後ろにさがって、魔法でオレを援護するのが役目ではある。
 しかし、見習いという

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『バラックシップ流離譚』 見習い魔女さんはトカゲ男に恋をする・2

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友人たちの反応
「正気かよ」

 彼氏ができたことを報告したとき、ラキから返ってきた第一声がそれでした。

「ひどいよラキ」
「だってよ、リザードマンだぜ。トカゲだろ? 爬虫類」
「それのなにがおかしいの? 愛の力は種族の壁だって超えるのよ」

 ラキは短く切った赤毛が快活な印象を与える少女です。私が力説すると、彼女はドン引きしたような顔になりました。

「えっ。マジなの

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