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小説

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異形ひしめく船上都市での群像劇『バラックシップ流離譚』他連載中
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2018年12月の記事一覧

『バラックシップ流離譚』 キミの血が美味しいから・6

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 一瞬の静寂は刹那ののちに雷鳴じみた轟音へと転じ、すさまじい衝撃が一帯を駆け抜けた。
 身体の軽いサタロはころころと転がり、ラムダ以下三人も踏みとどまるのがやっとだった。
 破壊音波とでも呼ぶべきほどの金切り声。
 ウィルの位置でも頭が割れそうになったほどで、至近距離にいたラムダたちは、うずくまったまま動けなくなっている。
 絡まっていた角を網から外し、ビークが口をひらい

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『バラックシップ流離譚』 キミの血が美味しいから・5

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「感動だよウィル! ボクらはいま、本物の大地に立っているんだ!」

 探索組を乗せたボートから海岸に降り立つなり、ニーニヤは人目も憚らず叫んだ。
 頬を上気させ、何度か足を踏み鳴らしたのち、しゃがんで砂に手を這わせる。まるで子供だな、とウィルはため息をついた。

「ふつうの砂浜だろ」
「馬鹿を言うな。砂粒ひとつ取っても、微生物の死骸や鉱物種類など、場所による特色は表れるも

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『バラックシップ流離譚』 キミの血が美味しいから・4

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 翌朝。
 異世界ヤルヒボール5.3に到着した日から数えて六日目。
 テンションMAXのニーニヤとともに、ウィルはふたたび甲板に降りた。
 初日には精鋭数名だったという探索組は、百名近くの大所帯に膨れあがっていた。
 なんでも、レムトの持ち帰った石や木材を調べたところ、その有用性が認められ、かなりの高値がつくことがわかったらしい。
 そのせいで個人、組織を問わず、参加希望

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『バラックシップ流離譚』 キミの血が美味しいから・3

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 皆、一様に渋い顔をしていた。
 最年長のエルガードなどは、禿頭をゆであがったように赤く染め、こめかみをひくつかせていた。

「正気ですか?」

 マーカスが口をひらく。まったくいつもの調子なのだが、あまり辛辣とも思えないのは、ウィルも含めたこの場にいる全員の総意だったからだ。

「もちろん正気だし、掛け値なしに本気だよ。いったい、なにが問題なんだい? 外出日の前倒しはた

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