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あしげい2023をそれぞれの眼差しから振り返る(坂藤加菜・伊藤ゆりか)

8/19(日)に閉幕を迎えた『葦の芸術原野祭2023』。あれから3週間が経ち、秋の予感が近づいてくる日々をたどりながら、それぞれの生活や創作へと戻っていきました。
あしげいとはなんだったのか、それぞれにとって何が起き、いまの時間へと続いているのか。この連載では、実行委員・参加作家それぞれの眼差しから、あしげい2023を振り返っていきます。


坂藤加菜

こんにちは、坂藤加菜ともうします。東京でバストリオのメンバーとして活動しながら、ダンスや音楽などをしつつ生活しています。あしげいには2021年の1回目よりゆるやかに参加させていただき、夏を斜里で過ごすのは今年で3年目です。
自分が暮らす所からはなれた斜里に、好きな景色や落ち着くお店、会いたい人が増えていくことがとても嬉しいです。

わたしからは『黒と白と幽霊たち』について、少し書かせていただきます。
『黒と白と幽霊たち』は2016年に東京で初演があり、以後国内の様々な土地で繰り返し上演されてきたバストリオの作品です。

http://busstrio.com/kuroshiro2022

あしげいでは初年度(2021)から続けて、本会場である斜里町旧役場庁舎にて上演を続けています。毎年多くの方が協力してくださり、そしてたくさんの熱のこもった感想をいただき、いつも上演後は胸がいっぱいになります。

2021年『黒と白と幽霊たち』撮影:川村喜一
2022年『黒と白と幽霊たち』撮影:川村喜一

今年は8月9日の夕方に1回行いました。この日は朝から強い風が吹いていて、木の葉一枚一枚が意思を持ってるみたいにざわざわと動いていました。本番中にはふしぎと風がおさまり静かな気配のなかで、たくさんのものがこっちを見ているような聞いているような感覚がありました。

2023年『黒と白と幽霊たち』撮影:川村喜一

上演が始まる直前、出演するわたしと橋本さんは旧役場庁舎の前庭に裸足で立ってスタンバイしています。上演の冒頭の音に耳をすませて、裸足でコンクリートや芝生を踏みながら、今までこの地面を歩んできた人や動物のことを考えます。夕方はいつもちょうど空が焼け始めて涼しい風が吹き、オホーツク霊園やその向こうの海のことを思い出したりしながら、出番がやって来て玄関から会場に入ります。
3年連続見てくれる方、初めて見てくれる方、一番前から一番後ろからじっと見てくれる方、斜里で向き合うお客さんたちの目を見つめ返しながら最初の一挙を始める瞬間は何度経験しても言葉にしがたいものがあります。

わたしにとって『黒と白と幽霊たち』のホームは斜里になっています、旧役場庁舎で発する声の響きを、どこで上演してもきっと思い出します。
来年は、10年後はどうなるだろう。斜里という町でだんだんとかたちを変えながら『黒と白と幽霊たち』が続いていけば、こんなに夢のある話はありません。しばらく先はわたしもこの上演を続けられるように健康でいようと思います!

坂藤 加菜
1993年東京生まれ。武蔵野美術大学映像学科卒業。身体を用いた作品の発表、音楽家の演奏に交ざる踊り子、映像作品への出演、横須賀 飯島商店の催し「となりあう身」主催。


伊藤ゆりか

葦の芸術原野祭2023の実行委員、伊藤ゆりかです。
会期中は大勢の方にご来場いただき、誠にありがとうございました。

と、いかにも「それらしい」ことを書きましたが、私が「実行委員」として言えることは、実は皆無に等しいのです。この「振り返り文」も、書けるかどうか、書くか書かないか、書かないか書かないか、かなり書かない寄りまで傾いたあげく、ようやく、とりあえず、見切り発車で、書いてみることにしたという有様です。

私は、おととしの初開催時から「あしげい」に対して関心を持っていて、特に去年は足繁く通いました。ちなみに私の住まいは北見です。あしげいの舞台である旧図書館までは、片道90km、車で1時間40分ほどかかります。実家が斜里にある身とは言え、日々の暮らしも送りながら何度も通うというのは、ひょいとできることではありません。
それでも、多少無理してでも、あしげいに行きたい、あしげいをもっと知りたいと思えたのは、あしげいメンバーが「知床」「斜里」という土地をしっかりと踏みしめていることが分かったからです。
あしげいメンバーには、「都会」からバタバタとやってきて「はい、これがゲイジュツですよ、お食べなさい」というような姿勢を取る人は一人もいません。むしろ、住んでいる(いた)人以上に、この地のこと、人のこと、文化のこと…を知ろうとしていることが分かったのです。

彼らのその想いが、どうパワーになって、どこから湧いてくるのか、私には分かりません。分かりませんし、こう書くと簡単なことのように思えても来ますが、並大抵のパワーでないことは分かります。
ですから、「ことしもあしげい楽しみだな~」と、のんきに思考していたところに、実行委員会に入らないかと誘いがあったときには相当驚きました。彼らのパワーに追い付くことができるほどの「想い」が私の中にあるように思えず、とまどいました(北見~斜里という物理的な距離もありますし)。

それでも、結果的に実行委員という肩書きをもらったのは、そんな人が一人くらいいてもいいのかもなと思ったからです。あしげいの主な舞台は、図書館だった建物です。図書館には実に様々な本がありますし、どんな人が訪れてもいい場所です。彼らが知ろうとしているこの土地にだって、いろんな人が住んでいます(いました)。
私は考えすぎでした。

しかしながら、お客さんとして好きなときに見に行くのと、実行委員として参加するとでは、北見~斜里の距離感が大きく変わってくるもので、なかなか責任を果たすことができなかったと思います。催しを作り上げる過程では一筋縄ではいかない場面もあることは常ですが、その荷物を持つことができないまま、上澄みのおいしいところだけを食べてしまったなあと感じています。

それでも、メンバーは、そんなことないよ、ゆりかさんがいてくれてよかった、ありがとう、と言ってくれます(申し訳ねえ)。ことしのあしげいにおいて私がどんな人として存在できていたのかは謎ですが、私以外の人は、皆、心優しく、思いやりにあふれていました。とにかく、フラットな人たちでした。

「(旧)図書館でなんかやってるけど、なんなんだろうね」
「ゲイジュツってよく分かんないからなあ」
と思っている方もたくさんいらっしゃるかと思いますが、あしげいは、そんな気持ちの良いフラットな人たちと、私のような人もちょろちょろしながら、存在していました。

最後に、
私は、ポスター掲示のお願いのため各所をおたずねしていましたが、ポスターの掲示やタブロイド版の設置に快くご協力くださいましたみなさま、誠にありがとうございました。みなさまのおかげで、あしげいを広く知っていただくきっかけを作ることができました。この場を借りて、心より感謝を申し上げます。

ゆりかさんとAirdaさんが行った「日々」の様子

伊藤ゆりか
高校卒業まで斜里で暮らしていた生粋の「しゃりっこ」。雪の中、受験勉強のためたびたび旧図書館へ通っていた。現在は北見市を拠点にアナウンサーとして活動している。しれとこ斜里ねぷたの出陣式で毎年進行役を仰せつかっており、4年ぶり開催のことしは、あしげいメンバーの出陣も見届けることができて深く感動した。すばらしいアーティストばかりのあしげいの中では、中学高校と美術部所属だったことを言えずにいる(これからも言わないだろう)。FMあばしりパーソナリティー。朗読会「日々」をAirdaと共同主催。年女。


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葦の芸術原野祭は、有志による継続的な開催を目指しております。グッズの売り上げ・カンパは大切な継続資金となります。会期は終わってしまいましたが、グッズの購入でご支援いただけますと幸いです!

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