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今日のあしげい(2023年8月11日〜13日)

今回は中條さんに代わって8月から地域おこし協力隊として着任しました小泉柊介が、北海道は知床・斜里町で開催中の「葦の芸術原野祭(通称:あしげい)」会期中の様子を日記風に書いていこうと思います!
前回の記事(2023年8月6日〜10日)はこちら▽


8月11日のこと

お盆休みに入り今日は祝日、山の日でした。
休日とあって親子連れの方がちらほら。一階のどうわのへやではぬり絵のできるお絵かきコーナー、岩村さん制作による流木でできたおもちゃなどがあり、こどもたちの遊び場になってます。この日は子どもたちがここでぬり絵をしている姿を見ることができました。

また、このどうわのへやでは音楽家の松本さんとその友人である斜里出身の農家の大森さん、そしてあしげい実行委員総出による参加型展示の「シレトコノオト」が行われています。お二人は100の質問をお互いにやりとりし、その全質問が壁一面に貼られています。質問は知床に関するものから価値観に関わるものまでほんとうに幅広いです。たぶんほとんどの人が思いつく限りの質問はすべて出ているくらい。

斜里に暮らしている人と外から斜里にやってきた人としてお二人の答えの差異を見るのも面白いです。個人的には「未来の知床はどうなっていると思いますか?」という質問に大森さんが「わかりません」と答えたのに対して、松本さんが「あしげいがねぷた級の祭りになっている。」と答えていたのが対照的で興味深かったです。

また実行委員と協力してその質問の一部を来場する方も答えられる形に。一つはおみくじを引いて答えるおみくじ式。北海道の七夕が8月であることにちなんで、岩村さんが制作した笹をイメージした流木のオブジェに答えを書いた笹を飾ります。もう一つは松本さんと大森さんが一番聴きたい質問を付箋で答えてもらう付箋式です。斜里に暮らす人と外から斜里にやってきた人の回答を比べるのも醍醐味!
(詳細は以下、松本さんのポストより)

どうやらどうわのへやで遊んでいた子どもたちはそのままこの展示に参加しているらしく、飾られた短冊には子どもたちの答えがいくつもあります。この展示に参加していると、大人になってしまった自分も子どもの頃の自分をそのままに抱えていられるような気がしました。

好きな短冊のひとつ

午後からのバストリオの『セザンヌの斜里岳』は、メンバーの体調不良により急遽新たなメンバーを加えてリメイクされ、一回のみの特別上演となりました。とてつもない集中力によって一気に組み立てられていく稽古の様子は凄まじい熱量が流れていました。斜里岳を相手にしたこの上演のもつ広がりと深さは目が眩むほどです。斜里岳の麓に暮らす斜里のひとびとはどんなふうにこの山とともに生きてきたのでしょうか。自分はそのことをまだあまりよく知りません。しかしなかには絵を描く行為がともに生きることであったひとがいたことをこの上演で知りました。斜里岳は霧雨に隠れていたものの、演じ手の四肢の運動が一枚の斜里岳を描いているように見えました。

数時間のうちに作られ瞬間に放たれた二回目の上演は、拍手喝采のなか無事演じ切られました。また振替公演として『セザンヌの斜里岳』は8月16日 17:30〜と8月17日13:00〜の二回が追加で上演されることになりました。ご覧になれなかった方はぜひ足を運んでみてください!

『セザンヌの斜里岳』上演中の様子
『セザンヌの斜里岳』上演中の様子

8月12日のこと

今日は心地のよく斜里らしい風が吹く日で、オープニングアクトで縫われたハンカチの群れが久々に空を舞いました。

前日からイッケンヤコミンカレーさんが出張キッチンカーで旧役場庁舎(旧図書館)の前に止まってカレーの販売をしています。今日もまた正午の時刻になると、会場に集まっていた来場者の方々が待ってましたと言わんばかりに、外へと出て行きました。やさしい顔をした斜里の風に当たりながら各々がベンチや芝生に座って楽しそうにカレーを食べているのを見ているのは、なんだか気持ちがよかったです。

午後はバストリオのメンバーである黒木さんと坂藤さんがタッグを組んでやっているinter/viewをヒミツキチこひつじで行うというので付いて行ってみました。inter/viewでは、ダンサーである坂藤さんが顔の輪郭を手でなぞってその動きを絵描きである黒木さんが描くことで似顔絵ができます。お客さんは記念写真とともに笑顔でその一枚を持って帰っていきます。思えば去年はじめて斜里に来てあしげいにお手伝いに入ったときも、こうしてついていってモデルさんのために日差しを避けるパラソルを持ってその様子を見ていたことを思い出します。

2023年のinter/viewではその似顔絵の画用紙が刷新され、よりパワーアップしています!記念的な第一号のモデルとなったのは実行委員である中山よしこさんのお父さんでした。最初は気恥ずかしそうなお父さんでしたが、描いてもらった自分の似顔絵をみていたく感銘を受けたのか、その感想から表現そのものについてまで熱く語ってくださいました。その熱のある時間の流れは強く目に焼き付いています。

inter/viewで描いている様子
左から中山さんのお父さん、坂藤さん、黒木さん

またヒミツキチこひつじではあしげい会期中に伴い黒木さんの原画展が開かれています。黒木さんはあしげいのロゴやデザインを担当されているのですが、その原画を見れるのはなかなかない機会だとじっと見入ってしまいした。8月19日までやっているので、ぜひ足を運んでみてください!

展示されている原画の一部

閉館後、音楽家の松本さん『独白と番』の最終上演が旧役場庁舎(旧図書館)で開かれました。今回は急遽本藤さんがバリトンサックスを持って参加し、セッションになりました。始まる前に松本さんは銅鑼と波紋音(はもん)のあいだに立って、用意された席に座るお客さんに向けて「いつでも立って移動してもらって構わないし、一緒に音を探して見つけていきたい」という旨を伝えてくれます。

実際松本さんは音を探しに縦横無尽に空間を歩き回ります。今回は一階が始まりでしたが、二階にまで行って床を踏む音を一階に響かせてみたり、スーパーボールで壁をなぞって音を出してみたり、窓を開けたり閉じたり......etc.ほんとうに色んなことをします。それが伝播してお客さんも音を見つけようと自由に動き出すと、一気にその場で起きることが増え、それぞれが見つけた音を持ち帰る。すると、日々せわしく生きている中でこぼしてしまっていた音までもを丁寧に聴くようになっていることに気づいて驚いてしまう。少なくとも自分は『独白と番』に対してそんなイメージを抱いています。

銅鑼を挟んでセッションする松本さんと本藤さん(左から順に)
『独白と番』上演中の様子

8月13日のこと

先週に引き続き今週の日曜も開館とともに、斜里町立知床博物館の阿部さん、旧図書館時代の司書を務めていた登美子さんによる物見台 特別公開ツアーが開かれました。前回と同様お二人が懇切丁寧かつ滔々とした解説をしてくださっていたので、旧役場庁舎(旧図書館)が生きてきた姿が走馬灯のように目の前を流れるような不思議な体験をすることができました。また今回は阿部さんが特別にかつての旧役場庁舎(旧図書館)の写真をパネルにしてくださり、前回に増してより想像の解像度が上がりました。

写真パネルを使って説明する阿部さん

今日はよく晴れていたので、物見台へと辿り着くと知床岬から網走、斜里岳からオホーツク海までの四方全体を見渡すことができました。ここでは、阿部さんが斜里の記憶を地理的な部分含め人間が暮らしはじめたばかりのころから今までのことを説明してくださいます。その時間はとても贅沢なもので、好奇心を刺激されて質問が多く投げかけられ、今日は正午を回るまで物見台で話が盛り上がっていました。

物見台から見える光景の一部

なかでもかつて斜里にはアイヌのコタンがあったことを阿部さんが話しているのを受けて、いまアイヌの人たちはどうしているのかという質問は、強く印象に残りました。阿部さんは文献を踏まえながら思いの丈を語ってくださり、和人が入ってきたころのアイヌの人たちを書いた文献を読んでみてほしいとおっしゃっていました。自分の知る限りだと幕末の探検家、松浦武四郎の『知床日誌』はその一つだろうと思います。

一階では知床のイメージや、人々の歴史を伝える活動に関心をもって研究をなされている船木大資さんが旅をテーマに文献を集めた「フナッキーぶんこ」を展示しています。そこに上に挙げた文献も置かれているので、気になった方はぜひ一度手にとっていただければと思います。

今日のお昼にはおにぎり梅とらさんがキッチンカーで来ていたので、うめとマスのおにぎりを買いました。梅とらさんは去年も出店されていたのですが、全く同じものを買ったような気がして自分の嗜好の変わらなさに少し笑いました。当然ながら手作りのおにぎりはとてもおいしく、北山カルルスさんの描いたうめとマスのシールがおにぎりを包む袋に貼られていて可愛らしいです。

14時からは登美子さんによる朗読のラジオでした。登美子さんの朗読の声を聴いているとなぜか懐かしさを感じてしまいました。いままで登美子さんは一体どれくらいの子どもたちにこの朗読の声を聴かせてあげたのだろうとふと考えてしまいます。そして図書館の役目を終えたこの建物にまた登美子さんの声が響くというのは奇跡的なことなのだと聴き終えたいまになって噛み締めています。

登美子さんの朗読ラジオの様子

16時からは、あしげいでは2度目となるゆりかさんとAirdaさんによる「日々」5回目は演奏に特別ゲストとしてバリトンサックスを携えた本藤さんを迎えました。本藤さんは前日の松本さんの演奏と同じく、Airdaさんの演奏に全く違和感なく重なり、音色がより豊かになっていました。投稿の感想でもお三方共に会話が弾み、5回目にして新たな「日々」の姿を目の当たりにすることができたのは、斜里に移り住む前から配信で聴いていた一ファンとして幸運でした。

5回目「日々」オンエアー中の様子

いかがでしたでしょうか。あしげいでは至るところでいろんな出来事が起き続けているので、ここ書いたことは自分が目撃した一部にすぎないと思います。それでも少しでもあしげいに興味を持つきっかけとなれたら嬉しいです。次回からはまた中條玲さんによるレポートになります。お楽しみに!

(文:小泉柊介)


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葦の芸術原野祭は、有志による継続的な開催を目指しております。グッズの売り上げ・カンパは大切な継続資金となります。会場に足を運べない方も、ご支援のほどよろしくお願いいたします。

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