〈私を振り返る〉息子の卒業式
17年前。
2005年の3月。
私はここにいた。
12歳離れた妹の中学卒業式に。
女子生徒は真ん中から左にいるのは変わらない。
当時は向かって左側に母親と座っていた。
2023年3月10日
同じ場所で息子の中学卒業式。
今の私は、2回目の結婚をして夫と男子生徒のいる右側に座っている。
朝から降っていた雨はやみ、曇り空の卒業式。
小学校の卒業式とは違い、実感があまりない。
「卒業式絶対来てな!」
行くに決まってるのに念押しされる。
今まで仕事が忙しかったのを近くで見てきたから、
もしかして来れないかも?と思わせてたんだなぁ。
「行くに決まってるやん。」
「良かった〜。」
ちょっと切ない。
誘う気持ちに昔の私を重ねてしまう。
小学校の運動会、片親である母親が来ないこともあった。
ご飯休憩の時、サッと消えて、体育館の裏で1人でお弁当を食べ、「お母さん仕事に戻ってん。」と平気な顔をしてみんなの元に戻ることもあった。
みんなでお弁当を食べるイベントの時は、
白ごはんに焼肉のタレをかけて、
「かおりちゃんのお弁当何?」と聞かれ、
「お肉。」
と、蓋で隠しながら食べたりもした。
仕事に夢中になるあまり、息子に同じような気持ちをさせていたわけね。
寂しい思いもしてきたから、両親揃っての卒業式は嬉しいものになったみたい。
「俺、2組のトップバッターなんや!」
嬉しそうに笑顔で話してくれた。
「うん。」
「1組の最後の人の後に俺やからな!」
「なんで念押ししてる?」
「かおり分かってなさそうやから。」
「え?」
「だって、うんしか言ってなかったやん。普通は、あ、そうなんだ〜!とか言うやん?」
リアクションが薄かったのか。
「1回聞いたらわーっとるわ。」
「おお!そうか!」
〜そして今〜
3年2組
「阿瀬井勇希」
「はい。」
担任の先生からの最後に呼ばれる名前。
それに応える息子。
小さめの返事は、卒業式だからちゃんとしよう!ということもなく、いつも通りの俺。
自分をそれ以上に見せることのない、普段通りの勇希だった。
1年生の時は毎日叫び、前校長から、
「今日も吠えとるなぁ!とここから見てるんです。」と校長室で聞いた。
暴言、最悪の場合は手なんか出たりして、
入学からずーっと先生とやりとりしていたなぁ。
それが卒業式の練習を経て、先生や友達とのやり取りの中で流れを覚え、立派に順応している。
大きくなった。
あの泣いてばかりだった子が。
里子で委託されると、試し行動があります。
里親は先に研修を受けているのでとりあえずのマニュアルがある。
どんなことをしても怒らないかと新しい親を試す子どもを手放す里親もいる。
中にはテレビを壊したり、唾を廊下にはく子も。
勇希の場合は、3ヶ月泣き続けた。
寝ぐずり、起きぐずり各50分。
言葉が遅いため、何をするにも叫び、唸り、泣き。
とにかく泣き続けました。
私もどうしていいか分からず泣きました。
この子を叩けずガラスを叩いて割れてしまいました。
長い長いトンネルの中にいたあの頃。
欲しくてもらったはずの我が子が悪魔に見え、
一緒に死んでしまおうかと思うこともあったけど、
何とかここまでこれちゃったわ。
保育園から一緒だった子が代表で前に出ている。
「あいつ(代表の子)の前にいたから花粉症うつったんかなぁ。」
「花粉症、飛沫感染やと思ってる?」
「思ってた!」
と前日話していたあの子も大きくなっている。
2人とも立派になったね。
他にも沢山の保育園児だったあの子達が、大きく大きく育ってる。
私の周りにいる親達も、みんな私と同じく慣れない子育てに奮闘してきた仲間。
ここだけじゃない、過去も未来も含めた世界中の親が仲間。
時にうるさく声をかけたり、怒ったり、心配したり、
愛するあまり、本人には嬉しくないこともやってしまってた私たち。
それも全部、あなたたちを大好きだから。
それしかできなくてごめんね。
大好きは形を変え、変な方向に行ったけど、
それでも、こうしてこの時を迎えた私たち親は、
世界の誰よりもあなた達の成長が嬉しいんだよ。
親代表 阿瀬井香織
在校生の送辞は、まだ初々しさの残る声。
少し前まで6年生だった年長者の雰囲気と、また下級生に戻った雰囲気のどちらも感じる。
「野坂の峰も…」で始まる言葉に、野坂山の愛を感じる。
卒業生答辞。
もう大人を感じさせる風格、時々涙を抑えきれず詰まる言葉が会場の涙を誘う。
心の中で「がんばれー!」と叫んでいるみんなの声を感じる。
1年生から振り返る内容、親への思い、まだまだ1人では生きていけないから助けてくださいと頼める器の広さも3年生を終えた重みを感じる。
反抗期でいいづらいみんなの代弁かもしれない。
こんなに素直に表現されたら、親は何でもしちゃうよね。
今までの苦労が吹っ飛ぶくらいのエネルギー。
ありがとう少年。
校長先生の話も、いつもより聞き入ることができ、
途中涙で話せなくなる校長に、会場全員が集中する。
手に持っていた紙をたたみ、
顔を上げて話し出した時、曇っていた空から光が射した。
校長の話で涙が出るとは思っていなかった。
一見怖い顔からは想像できないほど、生真面目に誠実に生きてきた姿を思い浮かべる。
いい学校だ。
色々あったけど、それを含めて私の成長に力を貸してくれた中学校。
私だけじゃなく、勇希も夫もみんなも同じ。
私たちを育て直すためには、ここまでフィットする学校はなかったかもしれない。
学校に行く意味あんの?
とよく言われているけど、私にはあったよ。
私の学生時代、妹、息子の学校時代の違いも学びになる。
きっと妹は、「楽しかった!」と迷わず言う。
泣きながら相談してくることもあったけど、結局みんなに出会えたから!と胸を張るだろう。
それぞれが見たいように見る世界だってことが、人の話を聞いて感じる。それも学校。
同じ概念を違った角度から照らし合うと私の心がわかるなぁ。
親子共々、成長するための課題がここにある。
上手くいかないこと、それがたとえ不登校や病だったとしても、それぞれの魂の成長に必要な学びがある。
少なくとも私たちは親も先生も本気で向き合ってきた。
だから揉めた。
だけど、最後には一緒にで笑える日が来た。
そんなことを振り返りながら、全体の卒業式を終える。
退場する勇希の顔は、いつもどおり笑っていた。
「笑い堪えてなかった?」
「堪えてたよ。俺、近くにかおりがいると思うとウフフ〜ってなる♡」
つづく