童話にかくされた「もうひとつのストーリー」を読み解く!
アスコム編集部の菊地です。
すこし前のことです。
5歳の息子が、公園でオモチャを持っている子に、「貸して」と言ったら、「やだ」と言われたことがありました。
「あの子のオモチャなんだから、やだって言われたら、しかたないんだよ」とさとすと、息子はこう言ったのです。
「だってぼくは、貸してって言われたら、貸してあげるよ!」
ちょっと言葉が出ませんでした。
なぜなら、「貸してって言われたら、貸してあげようね」と教えたのは、ぼくだからです。
息子にしてみれば、貸してあげるのが正しいことで、貸してくれないその子は悪もの、ということになります。
でも、「いま遊んでいるから貸さない」というのはしごくまっとうで、その子にしてみれば、怒った息子こそ、悪ものでしょう。
どっちもまちがっていないのに、ふたりの悪ものが生まれてしまいました。
ぼくは息子に、どう言えばよかったのでしょう?
前置きが長くなりましたが、10月23日に『10歳からの 考える力が育つ20の物語』という本が発売されます。
テーマは、「正義の反対は、もうひとつの正義」。
この世に、正義ほど取り扱い注意なものはありません。
誰もが自分を正義と思っていて、相手を悪だと決めつける。
かの有名な猫型ロボットが言っていた通り、「どっちも自分が正しいと思ってるよ。戦争なんてそんなもんだよ」なのです。
この本では、童話探偵ブルース(ブタ)が、秘書シナモン(リス)とともに、世界の名作童話を「ちょっとちがう視点」から読み解いていきます。
たとえば『三匹の子ブタ』。
子ブタを襲ったオオカミだって、生きなくてはなりません。ひょっとしたら、お腹を空かせた子どもが待っているのかもしれない。
そこには、オオカミなりの立場や事情があるはずで、子ブタ側からの視点だけで、悪と決めつけていいのだろうか?
『裸の王様』で、王様が見えない服を見えると言ったのは、「バカだと思われたくないから」だけでしょうか?
ほかにも、王様でさえ逆らえない、恐ろしい力が働いていたのかもしれません。
『鶴の恩返し』の老夫婦は、約束をやぶって部屋をのぞいてしまい、鶴は去っていきます。でもそれって、バッドエンドなのでしょうか。
ときには、約束を守るよりも大切なことがあるかもしれない。
こんな風に、誰もが知っている童話を別の角度から見てみると、まったくちがうストーリーが見えてきませんか?
「物事をいろんな角度から考える力」とは、つまり、相手の立場になって考えてみるということです。
その視点が、いろんな考え方を理解できるようになり、興味の幅を広げ、想像力をのばし、思いやりの心を育みます。そして、自分で考えて、自分だけの答えを見つけられるようになる。
それこそが、今の子どもたちに、そして大人にも、一番大切なことなのではないでしょうか。
・・・と、まるですべて自分が考えたように書いていますが、さにあらず。
「正義の反対は正義」という言葉も、童話をテキストにすることも、キャラクターもストーリーもすべて、この本の著者で放送作家である、石原健次さんの頭の中から生まれました。
「子どもたちが『へぇ〜!』とおどろいて、『なるほど!』と納得し、『そうだったのか!』と目からウロコが落ちるような、ワクワク出来る本にしたいっすね〜」というぼくの無茶ぶりに、満点以上の回答をくださいました。
挿絵を描いてくださったのは、絵本作家で芸人の矢部太郎さんです。
ブルース、シナモン、不思議な乗り物ミートバン、山の上のオフィス、ひとクセあるサブキャラクターたち。
そして、20の物語のメッセージを1枚の絵で完璧に伝える、挿絵の数々。
ラフが届くたびに、「最高です!」を繰り返す壊れたレコードのようになっていました。
ぼくは、ひたすら「才能」の前にふるえているばかりだったのですが、その辺の話は、また改めて書かせていただければと思います。
最後に。
この本を作り終えた今、ぼくはあのときの息子に、こんな言葉をかけたいです。
君の考えは、もちろん正しいよ。
でもね、あの子にも、オモチャを貸したくない理由があったのかもしれない。
ちょうど面白いところで、途中でやめられなかったのかもしれない。
今日買ったばっかりで、まず自分が遊びたかったのかもしれない。
じつは、他人が触ると爆発する危険なオモチャだったのかもしれない。
その理由を、ふたりで考えてみよっか?
それが言いたくて、また息子がオモチャを断られないかな、などと、本末転倒なことを考えています。
※こちらもnoteに書きました。本書の企画スタートから、制作していく中での話です。