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霞ヶ浦カムバックウナギプロジェクト

私たちが変われば、ウナギは戻ってくる!

提案は、資源量が激減し世界が今後の動向を注目しているウナギの資源回復を、国家戦略特区で提示されている「地域活性化の新たなモデル構築」や「国、地方、民間の三位一体による規制改革」等のコンセプトに基づき、国内最大のシラスウナギと天然ウナギの漁獲量を誇った霞ヶ浦において、地域の多様性を活かす社会イノベーションによって、絶滅の危機にあるウナギを回復させ、地域の経済発展と環境保全を同時に実現させようとするものです。
(以下の文章は、2013年9月8日付けで、国家戦略特区担当大臣宛に提出した文書をもとに作成しました。)

ウナギが教えてくれる未来社会


 本プロジェクトでは、地域に分布する多種多様な社会資源を縦割りの壁を越えた新たな文脈(付加価値の連鎖)で繋ぎ、地域に潜在する資源を浮上させることで、経済成長へとつながる画期的な地域活性化モデルとなることが期待されます。同時に、世間の関心を集めているウナギ資源の回復をテーマにすることで、このような価値創造的な取り組みへの広範な共感と支持を得ることが期待できます。このモデルの実現による波及効果は、国内のウナギ関連産業や環境保全のみならず、これからの社会や経済のあり方へ示唆を与え、極めて大きなものになると考えます。

逆水門が閉鎖されるまで、国内最大のウナギ産地でした!

ウナギが戻れば社会が変わる!以下の社会的経済的効果が期待されます。

1.多様な主体の恊働により日本最大の天然ウナギ産地霞ヶ浦を再生することで、環境保全と経済振興が両立可能な先進モデルを構築することができます。

2.絶滅の危機にあるウナギの回復には、スピード感のある取り組みが求められています。ウナギ資源の枯渇を防ぎ回復をさせることで、ウナギ生産加工業(市場規模年間約1千〜2千億円)および関連産業の維持と振興をはかることができます。

3.地域の多様性を活かしたルール(自生的秩序)作りを行うことで、漁業や工業、農業、行政など地域の多様な分野が恊働する社会イノベーションを起こし各分野での生産性を向上させることができます。

4.余剰工業用水の有効活用により、農業用水の水質改善と生産コストの削減など地域農産物の品質向上と競争力強化を図ることができます。

5.漁業の再生による地域経済効果(年間190億円〜308億円の漁業者利益増)や雇用の創出効果が見込まれます。

6.漁獲による水質改善効果(茨城県水質保全計画等)を拡大することで、霞ヶ浦の水質改善が見込まれ、国費による水質浄化事業費の削減をはかることができます。

7.世界的に減少しているウナギの資源回復を実現することで、日本のブランド力を強化することが期待できます。

ウナギを呼び戻すために逆水門を柔軟に運用する。

霞ヶ浦と海(利根川下流)との間に設置されている常陸川水門(逆水門)の柔軟な運用を実現し、ウナギの湖への移動を可能とすることで、湖および流域でウナギが生息できる環境を整え、ウナギ等有用魚種の資源回復をはかります。

 1973年以来、海から霞ヶ浦への魚類の移動を遮断している逆水門の操作を見直し、流域に塩害が生じない範囲での水門の柔軟な開放を行い、シラスウナギなどの魚類の湖への移動やヤマトシジミの生息を可能とします。

 シラスウナギは塩水楔といわれる比重の異なる海水と淡水の境界面に乗って海側から湖へと河川中央部を移動します。この塩水楔の移動を観測し、逆水門の中央部のゲートのみを一時的に開放します。これにより、海水の湖への進入をできるだけ抑えながら、シラスウナギを湖へと導きます。(現在、逆水門には魚道が設置されていますが、岸側に設置されているためシラスウナギは利用できません。そのため、シラスウナギは対象外となっています。)

 この方法によって効果が期待できるものは、他にヤマトシジミやスズキ、マハゼなどいずれも経済効果が高い魚種です。

 この提案を、「地域の多様性を活かしたルール作り」や「地域の多様な分野が恊働する社会イノベーション」によって実現させます。

想定される関係主体:国(国交省・農水省・経産省・厚労省・環境省など)、茨城県、流域自治体、漁業協同組合、NPO法人アサザ基金等

必要な規制改革等

現行では霞ヶ浦の水の利活用目的(完全淡水化と利水のみ)がきわめて限定的であり、霞ヶ浦が本来有する資源の有効利用による莫大な効果(ウナギ資源の保護やウナギ関連産業による経済効果もその一つ)を全く得られていない。そこで潜在する資源を生かすことかできる水利用への転換による利益最大化と安定的な水利用の両立を図るために必要な規制改革の実施が必要です。

塩害のリスクを減らすために余剰工業用水を活用する。

 余剰工業用水を下流側の農業用水として有効に活用することで、柔軟運用の安全度を高めると同時に、下流地域の塩害防止の強化をはかります。地域の多様性を活かしたルール作りにより、工業や農業、漁業の生産性を向上させます。

 逆水門の柔軟運用を実現する上で、課題となるのは下流域の農地に水供給している鹿島南部農業用水への塩害対策です。鹿島南部農業用水の取水口は、逆水門の上流わずか800mの地点にあるため、従来から塩害の不安が絶えません。現行の逆水門操作でも取水口付近での塩分濃度が高くなることが多くなっています。また、取水口が湖の最下流にあるため懸濁物質が多く水質が悪いため、農業用水の活用先であるハウス栽培で灌水設備の目詰まりなどの悪影響も生じています。

 わたしたちは、鹿島南部農業用水の取水について、現在の塩害が生じやすい場所からの取水を止めて、湖の上流から取水をしている鹿島工業用水路からの余剰水の取水に転換することを提案しています。

 鹿島工業用水路は、鹿島南部農業用水の水路と同じ国道124号線沿いに並行して敷設されていますので、国道内の地下で同工業用水路と同農業用水をパイプで連結すれば、余剰工業用水を農業用水路へと送水することができます。

鹿島工業用水の余剰水は日量35万トンにもなり、その有効活用が課題となっています。また、鹿島工業用水の取水口は北浦の中上流にあるので塩害の心配はありません。また、懸濁物質も少なく水質も下流域より良いので現在利用しているものよりも良質の農業用水を下流の農地に送ることができます。

鹿島南部農業用水の霞ヶ浦からの取水量は最大で日量6万トンなので、余剰工業用水(日量35万トン)の一部を農業用水路に送水すれば十分に足ります。

 構造的な塩害のリスクを負わされていた鹿島南部農業用水の取水を、現地点(最下流)から鹿島工業用水路(上流で取水)へと移動することができれば、農業にも大きなメリットがあります。さらに、工業用水路と農業用水路をつなぐ工事も、同じ国道沿いにあるため小規模で済み用地買収なども必要ありません。もちろん余剰水の有効活用にもなります。

 上記の提案を実現するためには、余剰工業用水を企業が土地改良区や農家に転売することができる特区(地域の多様性を活かしたルール作り)の指定が必要です。

想定される関係主体:国(国交省・農水省・経産省・厚労省・環境省など)、茨城県、流域自治体、漁業者、鹿島南部用水利者、土地改良区、鹿島工業用水受水企業、NPO法人アサザ基金等

必要な規制改革等

 もともと海と川を結んでいた霞ヶ浦の持つ機能を復活させるため、水利用全体が効果的に運用できるように規制を変更する必要がある。たとえば、本提案事項の実現のためには工業用水の余剰水を農業用水として利用することから、工業用水事業法など関連法やそれに基づく地方自治体の規則等を合わせて見直す必要がある。特区により現行水需要予測を金科玉条とする規制体制を合理化するために一旦サスペンドすることで、余剰水の有効活用や資源化が可能となる。

水系全体を保全する取り組みで湖の再生とウナギの復活を実現させる。

  霞ヶ浦流域でのウナギ生息地の保全と再生を、高付加価値の米作りで実現するビジネスモデルの推進によって実現していく提案。

 国内第二位の大きさを誇る霞ヶ浦は、湖面積が約220㎢、流域面積はその約10倍あります。霞ヶ浦の特徴のひとつは大型の流入河川が無いということです。56本ある流入河川はいずれも中小河川で支流に谷津田と呼ばれる樹枝状の谷状の水源地を持っています。霞ヶ浦流域にはこの谷津田が非常に多く、流域のほぼ全体をネットワーク状に被っています。

 霞ヶ浦がウナギの一大生息地であった理由のひとつは、広大な流域に広がる谷津田のネットワークがあったと考えられます。実際に、住民へのアンケート調査によっても谷津田の小川や池などでウナギを捕ったという情報が数多く集まっています。

 しかし、この谷津田も近年耕作放棄地が目立ち荒廃しつつあります。アサザ基金では、これまで5社の大手企業や3社の地元酒造会社等と恊働で10箇所の谷津田で耕作放棄地を再生して無農薬の米作りを行い地元酒造会社で地酒を造ってきました。これらの取り組みは、環境省等による第一回生物多様性日本アワードグランプリを受賞しています。

 このような地酒をブランド化して、流域にある他の酒造会社とも連携して生産拡大をしていくことができれば、荒廃が進む霞ヶ浦の水源地(谷津田)の再生を流域全体に広げていくこともでき、広大な流域全体をウナギ生息地にすることができます。同時に、水源地(谷津田)の再生は、朱鷺の野生復帰の受け皿となることも期待されています。

 同時に、霞ヶ浦流域の水源地における高付加価値の米作りの普及や、流域に数多くある中小の酒造会社との連携による地酒のブランド化などによる生産性の向上や販路の拡大(海外も含む)が見込まれます。また、同時に、水源地荒廃への対策費用(歳出)を削減することができます。

 このような谷津田再生の動きを加速させ広域に事業展開するためには、農業参入の規制等を緩和し、ビジネスとしても成り立つ水源地保全型であり環境再生型農業に企業等が参入しやすい魅力的な体制づくりの促進などが可能となる特区の指定が有効です。

想定される関係主体:参入企業や地域の農家や組合、酒造組合、居酒屋チェーン店、スーパーなど  NPO法人アサザ基金

これらの提案によって期待される経済効果と社会効果

 アサザ基金が提案している逆水門柔軟運用等が及ぼす経済的な効果については、2003年にUFJ総研(当時)が算出をしています。短期的には毎年193億円、長期的には毎年308億円の漁業者利益増が見込めるという試算です。その中で、短期予測でウナギは毎年461トン、ヤマトシジミは2516トンの漁獲が見込まれています。その他、マハゼやスズキなどの魚種が湖に戻って来れば、漁業の活性化のみならず、加工業や小売業、観光業などへの経済波及効果が、地域に何倍にもなってかえってきます。

2004年時点での試算

 同時に、漁業の再生は漁獲による「魚体に含まれる窒素やリンの取り出し効果」で、霞ヶ浦の水質改善にもつながります。提案実現時に予想される総漁獲量に対して魚体に含まれる窒素とリンの割合を単純にあてはめると、毎年窒素が約310トン、リンが約62トン、湖から取り出す(浄化)することができると同時に308億円の経済利益が生まれます。

 これを、湖内の底泥に含まれる窒素とリンを湖外に取り出す底泥浚渫事業と比較すると、同事業では年間約95億円を使って窒素が約44トン、リンが約4.5トンとなります。

 このように、アサザ基金が提案する霞ヶ浦ウナギ再生特区を設置することで、漁業や農業、酒造などの地場産業、大手企業のCSR等を活性化することができ、ウナギ産地復活をとおしたブランド力の強化による地域経済の振興を実現することができ、長年の課題である霞ヶ浦の水質浄化にも民間活力を活用した手法を導入することで、大きな水質改善効果と同時に歳出削減をはかることもできます。

市民型公共事業で社会に潜在している資源の掘り起こす。

 このような既存の枠組みや縦割りにとらわれない提案の実現には、関係する多様な省庁間の規制の壁を越えて、合意的効果的に問題や課題に取り組むことができる場(特区)が是非とも必要です。
 停滞した社会から脱却するためには、私たちは1995年から取り組んできた市民型公共事業という発想が必要と考えます。

 市民型公共事業によって、多様な主体の恊働が生まれ民間の創意工夫が生かされて、ウナギの資源回復を実現することが、原発事故以降に失われた日本のブランドを取り戻す一端になるもと考えます。

逆水門の柔軟運用による効果を予測する上で、参考になる過去の事例


秋田県の八郎湖の事例
霞ヶ浦での事例

逆水門の柔軟運用案のより詳しい内容や経緯については、アサザ基金のホームページhttp://www.asaza.jp をご覧ください。

認定NPO法人アサザ基金事務所  メールアドレス asaza@www.asaza.jp



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