
お父さん、お猿さんがいる!
写真はまだまだ赤ちゃんの時のビオラ。
警察犬訓練所に預けている時のもの。
そこの訓練が修理し、晴れて卒業。
そして我が家に帰ってきた時のことを思い出す。
初めて、彼女を連れて近所を散歩してみた。
が、大層な怖がりよう。
前に進まない。足を踏ん張り、歩こうとしない。
どれだけ促しても進もうとしない。
お昼だった。日曜日の昼だった。
僕らの姿を誰が見ているかわからない、という焦りもあった。
じゃあ、仕方ない。少々スパルタだが、リードを引っ張って連れて行く。
彼女は足を踏ん張る。僕はリードを引っ張り彼女を引きずり歩く。
そんな時、遥か後方から男の子の声がした。
「おとーさーん!お猿さんがいるよー!早く早く!」
え?猿?サル?Saru?さるがいるの?
僕は足を止めて声のする方に振り向いた。
だって、街中で猿なんて。そうそう見れるものじゃない。
しかも犬猿の仲と言われる犬をこちとら連れているわけだ。
だが、猿なんてどこにもいない。電線の上を見るがいない。
ビオラと目が合った。声の主は、君を猿だと思っている。きっとそうだ。
僕は、リードを引っ張る力を更に増して死角へと逃げ込んだのだった。