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海辺に取り残された廃道 山口県周南市
山口県道170号粭島櫛ヶ浜停車場線は、山口県周南市粭島から太華山の東側を周り、同市久米のJR櫛ヶ浜駅までを結ぶ一般県道である。近隣にお住まいの方であればおそらく一度は通行したことがあるのではないだろうか。
そして、通行したことがある方の中には、車窓の風景を見てこう感じた方がいるはずだ。
道の外に道がある、と。
こう言われてもピンと来ない方も多いだろう。こちらのストリートビューの画像を見て貰えば分かるだろうか。
![](https://assets.st-note.com/img/1677547417590-i1z8BeXt4z.jpg?width=1200)
ね、白いガードレールの外側、普通は道がないような少し低い位置に、山口県名物の黄色いガードレールが見えるでしょ。
終点の櫛ヶ浜側から車で走っていると、この黄色いガードレールがちらちら見えてとにかく気になる。下の道と上の道、2階建になっているようではないか。
まずは地理院地図で場所を確認しておこう。黄色いガードレールがある謎の道は、徳山競艇場の南、海に張り出した所にある。
![](https://assets.st-note.com/img/1677547463030-g97dUeLA1D.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1677547564469-Ze75CsoXUo.png?width=1200)
ご覧のとおり、2階建道があるはずの区間を拡大した地理院地図では、1階部分の道路は描かれておらず、ぶっつりと切れてイカの耳状態となっている。
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じゃあ実際はどうなのかと言うと、Googleの航空写真ではこんな感じ。地理院地図のぶつ切り部分を赤で書き加えたが、この切られた先にも道が続いていることが分かる。
道があるなら歩けるはずだ、ということで、今回は1階部分の道に始点側(南側)から入って最後まで歩いてみようという、それだけの話。
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2022年6月某日。私は1階部分の入り口にいた。上記地理院地図で言えば、南側の切れたところ。
この写真の左側の綺麗な舗装の道路が現道だが、その脇にこんなにも広い入り口がある。地理院地図の表記と異なり、幻ではなく実体を持った道が存在している。そしていつでも入っていいよと私を誘っている声が聞こえるのだ。
ならば、遠慮なく行かせていただく。
なお、ここから先はフナムシが頻繁に現れるので、苦手な人は踏み込まないのが無難と思われる。
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100mも進まず、いきなりの、OWARI
前方には私の顔の高さ近くまで繁茂した猛烈な藪が、いつ果てるともなく道を覆い尽くしていた。最初は海沿いの気持ちのいい道という顔をしてたのに、豹変しやがった!
力ずくで藪の突破を試みることも考えたが、やめておいた。この判断は結果的に正解だったと思う。先程の航空写真を見てもらえば分かると思うが、この藪はおそらく奥に50m程度は続いている。往復となれば100m。競艇場に行ってきたおっさんスタイルで突入していいレベルではなかったと後で知った。
海側に降りるか、現道を通って上から迂回するかという策も考えたが、どちらも意外と高さがあって危ない。
ここは潔く撤退だ!
そして、2023年2月某日。
冬枯れの時期を狙い、およそ半年ぶりに私はこの場所にいた。
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今回は天気がいいぞ!
まずは前回リタイア地点に向かう。
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ここが前回断念地点!上の写真と見比べてみると明らかなように、今回は薮が枯れ果てて視界が開けている!季節選択の勝利だ。前回多くいたフナムシも見かけない。
枯れ藪を踏み越えて進むぞ!
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こうして歩いてみると、夏場にこの藪を越えるのは地獄だということがよく分かった。枯れ藪地帯は優に50m以上の距離がありそうだ。
冬ならば、枝や蔓が時折邪魔をするものの、徒歩の推進力をもって十分に踏破可能な難易度である。
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枯れ藪を抜けるとこのような溝と、鉄板で蓋をされたコンクリートの箱状の施設。現道側からの排水を処理する施設だと思われる。数十メートル間隔でこのような溝があった。
溝の向こうは少し道幅が広くなって1車線分はありそうだぞ。
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広い!
で、ここで路面の矢印の表示に注目してほしい。手前から奥まで3本の矢印表示がある。進路変更を促すお馴染みの道路表示だが、普通の道なら当然珍しいものではない。だが、ここには変更すべき進路たる道が存在していない。この矢印が何か、過去の航空写真が教えてくれた。
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これね、ちょっと小さくて見えにくいかもしれないけど、2008年の航空写真。大きくして見てみて。3本の矢印が完全一致だ。
この写真がすごいのは、まさに現道を工事しているその最中の写真だということだ。実にすばらしいタイミングで撮ってくれた。
2008年時点では私が歩いている廃道はまだ現役で、その山側に現道ができつつある。現道は津波等災害防止の観点もあるのだろう、廃道より1.5mほど高い位置に作られている。やがて完成した現道が、いまや廃道と化した1階の道を飲み込む2階の道として君臨することになるのである。
この矢印道路標示のような過去と現在をつなぐシンボルの発見は、大変私好みだ。
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特に変化のない景色の中を歩く。右は真っ青な海、左は高い位置に現道。
現道がもう少し高い位置にあれば何てことなかったんだが、現道を走ってる車からは、ガードレールの隙間を通してそこにいるはずのない人間である私の顔がよく見えたことだろう。ギョッとしたドライバーもいるかもしれないと思うと、ちょっと楽しいような申し訳ないような。今回に関しては私の動きは完全に合法的なものなので許して欲しい。
3枚目の路肩からニョキニョキ生えている木は、現役当時はなかったはずのものだ。2008年の工事から15年でアスファルトの隙間から生まれ、ここまで育った。枝が顔に当たってきて地味に痛い。
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夏だったら地獄という区間を再び通り、視界が開けると、骨だけになった傘の死骸が落ちていた。南無。
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壁にぶつかって終了!
フシ付きのロープが現道のガードレールから垂れ下がっているのが気になる。まさかあのロープを使って、ここを上り下りした人間がいるのか。
廃道にあるロープは信用してはいけないという鉄則があるので、私はあれを使って現道に上ることはしなかった。
ロープの謎は消化不良だが、去年からの積み残しを解決できて満足満足。
帰りはただ来た道を引き返すのが嫌だったので、終点から50mくらい戻った所で車がいないのを見計らい、現道に這い上がってみた。排水用の溝の所にあったコンクリート製の箱状構造物が足場になってくれた。そこからガードレールを掴んで、あとは力づくである。
ガードレールを意識して触った事がある人は多くないかもしれないが、自動車の衝突に備える構造物なので、ものすごく頑丈にできている。薄い板のように見える部分なども、私の全体重を支えてびくともしない。実に頼りになるガードレールなのである。
それにしても、ガードレールと道路の隙間から転げ出るように現れるおっさんなんて、もし見つかればホラーか通報案件か。
県道170号を通行する際は私の同業者が路外から這い出してくる可能性があるので、皆さん注意してください。
おわり