阿伏兎観音の「!」に行ってみたら
大変久しぶりの更新である。私は虫や熊や暑さや藪に弱いので、廃道旧道探索は冬以外オフシーズン。今回は小ネタを仕入れたのでよろしければ。
1 事前情報
阿伏兎観音(あぶとかんのん)は、広島県福山市の南西部、沼隈半島の突端に建つ臨済宗の寺院である。
険しい岸壁に雄々しく建つ様は、誰が言ったか瀬戸のモン・サン・ミッシェル。近くには室町将軍足利義昭や坂本龍馬が逗留したことで全国的に有名な鞆の浦があるので、鞆観光のついでに訪れる人も多いことだろう。
しかし、今回の本題は阿伏兎観音ではない。
私はGoogleのストリートビューで各地の道路を見て回る趣味があるのだが、今回阿伏兎観音の手前で見つけてしまった。
ちょっと小さいが、あれは「!」=「その他の危険」の標識ではないか!?
でもちょっとおかしい。以前ここは訪ねたことがあるが、あんなものがあった記憶はない。前回の記事で書いたように、私はレアな「!」に強い執着を持っているので、まず見逃しはないと思う。
そこでさらにストビューを動かしていると、同じ場所の撮影時違いがあった。
10年前には「!」が存在していない!
あるのは「車両進入禁止」の規制標識だ。下の補助標識には「自転車をのぞく」とある。
2022.8撮影の「!」は、どうやら最近取り付けられたようである。私が知らなかったのも無理はない!
しかし新たな疑問。「!」はその内容の分かりにくさから、近年は減少傾向にあるはずだ。既存の標識を新たに「!」にやり変えるということは、考えにくいのだけど・・・。
まあいい、とにかく現地だ。阿伏兎観音は私の実家がある尾道から目と鼻の先。2023年8月11日、お盆の帰省を利用して現地調査に行ってきた。
2 現地調査
問題の標識がある位置を地理院地図上に示そう。
阿伏兎観音の北およそ300m、参道の入り口に問題の標識はあるのだが、私は標識の200mほど手前にある無料駐車場に車を停めて歩いた。
右手には場違いな太陽光発電パネルが並んでいる。奥には観光地らしく宿が見える。宿の方向へ進んでいく。
私の好きな古い宿の雰囲気。奥に見えるあぶと本館という看板の辺りまで行けば見える。
あった!現存している!さすがに2022.8撮影だからな。これ以上はもったいぶらずに、近づくぞ。
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変だ。
この標識、なんか変だよぉ・・・
何が変なのかピンと来ない方の方が多いだろうから説明すると、この標識は制式なフォーマットで作成されていない。
正しい「その他の危険」が、これだ。警戒標識全般に共通して言えることだが、白い余白はなく、黒い枠の外側は角、内側は丸い。私が前回載せた標識もそうだった。
それに対して、今回のこれ。
ううー、パチもんくせえーw継ぎ接ぎみたいな痕跡があるし、黒い枠はテープを貼ってるみたいだぞw余白のバランスもなんかおかしいし、ツッコミどころ満載の標識となっている!Googleストリートビューでは気づきようがない、現地調査ならではの観察だ。
上の写真でも木々の隙間に見えているけど、このパチもん標識の20mほど後方には、これがある。
落石注意の警戒標識、ちゃんと制式版!2013.10にはなかったものだ。標識表面は再帰性反射のためのコーティングまで施されており、まだ新しい、きちんとした標識である。既に木に埋もれつつあるがw
パチもん臭い「!」と、その奥の真新しい落石注意。現地で発見されたものは以上である。
え、風光明媚な阿伏兎観音の写真ですか。ないですよ。行ってないから。私の用事は標識で終了し、回れ右。
3 追加調査
さて、パチもんくさい「!」標識を発見したものの、その素性は謎に包まれている。最後に、標識の設置経緯について、私が考えるところを書いておこう。
まず、標識がある道路について。福山市は、「ふくやまっぷ」という福山市地図情報統合サイトを運用しており、なんと道路台帳付属地図を閲覧することができる。素晴らしい。
これによると、標識がある道路は、能登原52号線という歴とした市道である。
市道であれば、警戒標識(!や落石注意など、注意を促す黄色いダイヤ型の標識)の設置権限は道路管理者である市にあるのが原則だ。今回発見された落石注意の警戒標識は、最近福山市が設置したものと考えて差し支えないだろう。
では「!」はどうか。仮に市が「!」を設置したとすれば、落石注意同様に制式なフォーマットに則った標識となっていた可能性が高い。市が敢えて手作り感溢れるパチもん標識を設置する理由がない。したがって、市が設置したものではない。誰が設置したのかははっきりしないが、場所と意味合いから推測すれば、阿伏兎観音の関係者だろう。
視点を変えて、標識設置の必要性を考えてみる。「!」は、阿伏兎観音前の最後の駐車場の先に立てられている。ここから先は幅員3m程度の道路が300mほど続き、磐台寺の境内手前で途切れる。転回する場所はないので、万が一車で迷い込んでしまうと、延々バックしなければ戻れない。このような道路状況では、観光地である阿伏兎観音側は車の乗り入れを規制したいと考えるだろう。
以上の道路の状況を前提に、10年前には「車両進入禁止」の標識があったわけだが、これが「!」に置き換えられてしまった。そもそも、かつて存在した「車両進入禁止」も、現在の「!」と同様にパチもんだった可能性がないわけではない。今となっては検証不能である。
少なくとも、この10年の間に、「車両進入禁止」のままでは不都合な事情があり、「車両進入禁止」標識は撤去することとなった。撤去してそれっきりでは無知な車が境内付近まで進入してくるかもしれないと危機感を覚えた阿伏兎観音関係者は、お手製の「!」標識を設置すべく、道路管理者である市に道路占用許可を申請。晴れて申請が認められ、現在の「!」設置の運びとなった、のかもしれない。
私としては「車両進入禁止」もパチもんで、「落石注意」の標識を設置しに来た市の職員に偽標識を見咎められ、なんだかんだ協議した挙げ句「!」を設置する運びとなったというストーリーが一番楽しい。
以上、たかが1つの標識をめぐる現地探訪と調査・空想の記録をお送りした。8月は道路ふれあい月間(←これを知ってる人自体ほとんどいない気が…)なので、皆さんも気になる標識(←気になる標識がある人自体ほとんどいない気が…)を訪ねてみたらいいかもね。
終