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プライズ完結!
いらしてくださって、ありがとうございます。
前号から隔月刊となっておりますオール讀物、先日発売された9・10月号は第171回直木賞特集号でもありました。
今回の直木賞は、候補作五作品のうち四作が短編集で、長編が一作のみ。受賞作『ツミデミック』(一穂ミチさん:光文社)も短編集でした。
本号に掲載されております直木賞選評全文は、八名の選考委員作家さまの好みや深さ浅さがはっきり出ていて、つくづく芸術作品を評価する行為の難しさを感じております。
また、今回の選評では、
・必ずしも感染爆発に依拠しなければ成立しない物語ではない
・若者たちの抱える焦燥や空疎は(令和でなくとも)昭和でも平成でも成立する
・「なるほど、このひとならではの言動だな」とは感じきれぬ部分があった
・登場人物たちが、ネットで読んでいる実話怪談でよく見かけるタイプであることが引っかかってしまった
といった文言が各作品について挙げられており、印象深かったです。
「この時代、この人物でなければという必然性をもたせて」
「作者のオリジナリティをさらに高めて」
ということでしょうか。
三度目のノミネートで直木賞を受賞された一穂ミチさんの『自伝エッセイ──デビュー作から受賞までの軌跡──』は、以下のような関西弁でつづられており、笑いながら楽しく読み終えました。
受賞決まった翌日に文藝春秋行ってんけど、はいヘアセット、はいインタビュー、はい写真撮影……って流れ作業で進行していって、もうベルトコンベアー状態。最終的に出荷されるんかと思ったわ。
そして。
オール讀物9・10月号では毎号楽しみにしていた村山由佳さんの連載小説『PRIZE─プライズ─』が堂々の完結を迎えております。
前号では、直木賞を渇望している主人公の作家・天羽カインが、二度目の直木賞ノミネートをされながらまたも落選。ホテルのラウンジで出くわした選考委員の二人に「どこがいけないんでしょうか」と詰め寄りますが、「テーマが陳腐、あなたの筆が足りてないだけ」と、完膚なきまでにこき下ろされてしまう場面がありました。
なかなかにシュールなやりとりでしたが、受賞ならなかった作家さまならば、一度くらいは天羽カインのように選考委員へ喧嘩を売ってみたいと思ったりは……なさいませんかね^^;。
そんなあれこれがあるなかで編集者と二人、懸命に磨き上げ完成させた作品が、最終話では三度めの直木賞ノミネートとなりまして。
そこから先はもう、「ええ? そうくる???」と前のめりな怒涛の展開に。もう一人の編集者を襲った脅迫めいたメールの謎も明かされ(私は完全にミスリード)、巧いなぁとため息をつきつつの終幕でございました。
業界の内幕をこれでもかと披露してくださった本作ですが、最終話では、カリスマ書店員がベテラン作家に「直木賞に対する不満」をぶちまける場面がありました。ここは個人的にとても興味深い一節でして、以下にご紹介したいと思います。
(文中に登場する「南方氏」は選考委員を長くつとめてきた大御所作家、「兵頭氏」はカリスマ書店員です)
(兵頭)「南方さんはこれまで、どういう基準で直木賞を選んでこられたんですか。本屋大賞は、書店員のアンケートだからわかりやすいじゃないですか。でも直木でどの作品が選ばれるのかって、本当にわからない。時々私たちが店頭で推してるものがボロクソに貶されたりして悔しい思いをするんです。先生には怒られるかもしれないけど、『商売の邪魔しないでよ』って。今時、厳しい選評を言うことに何の意味があるんですかって思っちゃう。せっかく読んでみたいと思ってくれた読者の気持ちに、水をさしてどうするのって」
(南方)「そうか……また厳しいところを衝いてくるな。ひとつ言えるのは、直木賞の場合、選考する側は現役の実作者だからね。ストーリーが面白いとか共感できるなんてことよりも、小説としての面構え、文章の艶、テーマの現代性、あるいは人間というものがそのわからなさを含めて書けているか、説明の芸術ではなくイメージの芸術たりえているか……そういったあらゆることを総合的に見るわけです。その中でも、俺が最も重視してきたのは、志の高さかもしれないな」
(兵頭)「志……ですか」
(南方)「そう。自分はどうしてもこれを書くんだ、という志。それさえこちらにビンビン伝わってくるなら、たとえ少々の欠点があったって思いきり推したくなっちゃうね。志こそは、小説の持つ最大のパンチ力だと思う。(以下略)」
このやりとりを読んだときに浮かんだのは、恩田陸さんのこと。
恩田陸さんは直木賞6回目のノミネートで『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎)にて受賞しておられますが、この『蜜蜂と遠雷』という小説、読みはじめてすぐ、「これは恩田陸さん、めっちゃ全力で書いてる」とビンビン感じたのですよ。
作者が「全力で書いている」ことが冒頭から伝わってくる。これが「PRIZE─プライズ─」の南方氏が言う「自分はどうしてもこれを書くんだという志」だと思うのです。
世には映像化を見据えての、ある業界にウケがよいように、若くて美しい女優さんを起用させるべくマドンナを登場させて、という意図が透けてみえる作品もあって。いくら面白いつくりではあっても、そういうものをお書きになる作者のほかの本はもう読みたいとは思えぬもので。
また、作中のカリスマ書店員が言う「いまどき厳しい選評をすることに何の意味が」という言葉は、それが「商売の邪魔になる」という考えを持っているからこそ出てくる、と思うのです。
「小説を書きたい」人間ならば、「人の心を揺さぶる名作を書きたい」と考えるのではないでしょうか。本音は「売れさえすればいい」だったとしても。
選考委員に名を連ねるベテラン作家の方々の作品は、それぞれに「多くの読者の胸を打つ」ものを内包しており。
そうした作品を書く技術、何が足りていて、何が足りていないのか、「プロの厳しい目で見た本音」を私は知りたい。
たしかに毎回選評を読んでいて、「選者の好み」というものが大前提にあると感じてはいますが、それでも、「ここが足りない」という指摘は、「どうしたらそれを満たせるようになるか」を考えるための貴重なアドバイスであって。
当たり障りないどころか、ひたすら褒めちぎるだけの、「全米が泣いた」的な帯の惹句のような書評を読むよりは、当代の一線を張ってきたベテラン作家の忖度ない意見を私は聞きたい。聞いたうえで、酷評された部分を自分の目で読んで確かめて、「なるほど」とか「違うんじゃない?」と納得していきたい。「全員並んで仲良くゴールしましょう」では育たないものがある、と思うのです。
とは言え、指摘も人それぞれではあるわけで。今回の直木賞選評でも、推す方がある一方で、その作品に不足を唱えられる方もあり。
そうして様々な指摘を受けたことで、書く側は「どないせぇちゅうねん……」と迷走してしまいかねないとも思いつつ。
あとですね、カリスマ書店員さんという存在もまた、なんでしょうね、これまで個人的に触れてきたテレビなどでの発言などから少々モヤるところがあるのです。「商売の邪魔しないでよ」という本作中の文言はフィクションとしても、己のカリスマ性を自覚しているがゆえであろう発言はご……(以下略)。
話が逸れました<(_ _)>
本作『PRIZE─プライズ─』は、連載期間一年間、一度もダレることなく面白く読ませていただきました。小説を書く方、出版業界を志す方、直木賞作品を楽しみにしておられる方などには、業界の内幕に触れられる貴重な作品でもあります。
主人公の天羽カインは、小説を書くことに対しては他の追随を許さぬレベルで真摯で、読者に対しては天使か聖母のように振る舞う女性。
けれど、それ以外(とくに出版社の方々)に向かうときの性格のキツさと口の悪さは、物語の最後の最後まで「いつか天罰喰らうぞ(むしろ喰らってほしい)」と心の中で念じていたほど酷いものでした。それさえ除けば、小説を書くことに興味をお持ちの方に全力でオススメしたい作品です。
『PRIZE─プライズ─』は、来年2025年の1月に文藝春秋社から刊行予定とのこと。興味をお持ちになられた方はぜひに(´ー`)
それから、本号では『第104回 オール讀物新人賞』の中間発表も掲載されております。
783篇の応募の中から第一次予選を通過したのは45篇。うち、二次予選に進んだのは15篇。通過された方はこの先の選考結果をワクワクドキドキしつつお待ちになっておられることでしょう、まずは予備通過おめでとうございます!
北日本文学賞や太宰治賞などもですが、こうした予備選考通過者の作品名とペンネームが発表されると、じっくり見入ってしまいます。
知人の名前を探してみたり。
タイトルから内容を想像できるものもあれば、まったく想像がつかないものもあり。タイトル「だけ」で「面白そうだな」と感じるもの、このタイトルはアリなのかしら、と感じるものがあったりして、それらのお作品がどこまで予備選考を突破されるかを予想してみたり(自分が応募していたらそれどころじゃないのですけれど)。
今月末には北日本文学賞の締め切り、秋には星新一賞をはじめ、多くの文学賞公募の締め切りが控えておりますね。執筆に励んでおられるみなさま、もう一息、もうひと粘り、どうぞ踏ん張ってくださいませね。よい結果を得られますようお祈りしております。
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最後までお読みくださり、ありがとうございます<(_ _)>
まだまだ残暑厳しい日々ですけれど、朝に見上げた空はずっと高くなっていて、秋の気配を感じられるこの頃。
みなさまも佳き日をお過ごしになれますように(´ー`)ノ