立法の流れと閣議からの情報収集【政治と政府と日本の悪事 3月号】

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立法の流れ

本記事では、法律が作られる過程を取り上げて、どのように政治家と官僚に対策していくのかを考えたいと思います。

政治家と官僚は、一つは、法律により日本で悪事を行います。たとえば、日本人の食の安全保障を守ってきた、極めて重要な法律である「種子法(主要農作物種子法)」が2017年に廃止されました(廃止のための法律である「主要農作物種子法を廃止する法律」が採決されました)[1]。

一般的に、法律が作られる流れの途中で、特定の法律案がメディアが取り上げられることがあります。「どのような法律案が閣議決定された」というような内容の記事です。たとえば、2月1日に、以下の法案が閣議決定されました。
雇用保険法改正案を閣議決定 段階的に料率引き上げ―政府

この記事の内容としては、以下のようなものです。
・雇用保険料率の引き上げがされそう。
・これは、雇用保険法改正案による。
・この改正案は閣議決定された。

本記事は、この記事の内容やその善し悪しを見るよりも、一般的な立法の流れの一つである「閣議」を勉強し、今後に向けての準備としたいです。

本記事で学びたいのは以下となります。
・一つは立法の流れ(プロセス)の全体像を知り、閣議の位置付けを知ること。
・もう一つは、このプロセスに対して、悪事の発生を低下させるために国民として何か管理ができるかどうかを考察することです。一つは、どこで情報収集するのかについてです。

立法の流れと閣議

今回の記事では『立法学』[2]という書籍をもとにしています。同書によれば、法律が作られる流れの大きな分類として2つが紹介されています。
・内閣提出法案による流れ
・議員提出法案による流れ

以下の図は、同書より内閣提出法案の流れを抜粋したものです。今回は議員立法については割愛します。

この図で、今回の冒頭の記事と関係するのは、「閣議」の箇所です。閣議決定されたとは、この過程を通過したことを意味します。

閣議に関して少し中身を見ていきます。詳しくは、wikipediaの記事か、首相官邸のホームページの記事を見てください。

一部引用します。

閣議
 内閣は、国会の指名に基づいて任命された首長たる内閣総理大臣及び内閣総理大臣により任命された国務大臣によって構成される合議体(内閣法第2条)であるから、その意思決定を行うに当たっては全大臣の合議、すなわち閣議によることとなっている(第4条)。

https://www.kantei.go.jp/jp/seido/seido_2_2.html#seido_2_2

・誰が参加?:閣議は、内閣総理大臣及びその他の国務大臣で構成される。
・いつ開催?:閣議は、原則として、毎週火曜日と金曜日に総理官邸の閣議室において午前10時から開催される。ただし、国会開会中は、国会議事堂内の閣議室において午前9時から開催されることとなっている。このように原則として定例日に開催される閣議は「定例閣議」と呼ばれる。
・議事は公開される?:なお、平成26年4月以降の閣議については、「閣議等の議事の記録の作成及び公表について(平成26年3月28日閣議決定)」により、議事の記録を作成し、閣議から概ね3週間後に首相官邸ホームページにおいて公開されている。

閣議に付議される案件は、次のように説明がされています。

閣議に付議される案件は、憲法、法律等により内閣の職権とされているもの(いわゆる必要的付議事項)が多いが、その他にも、特に法令上の根拠がなくとも行政府内で一定の方針を確定しておくための、いわゆる任意的付議事項もある。これらが一般案件、法律・条約の公布、法律案、政令及び人事等の項目に区分されて処理される。

https://www.kantei.go.jp/jp/seido/seido_2_2.html#seido_2_2

閣議での案件の処理結果は次のように説明がされています。

 また、閣議に付議される案件は、その内容により、「閣議決定」、「閣議了解」、「閣議報告」として処理される。
 「閣議決定」は、合議体である内閣の意思を決定するものについて行われる。
 「閣議了解」は、本来、ある主任の大臣の権限により決定し得る事項に属するものであるが、事柄の重要性にかんがみ、他の国務大臣の意向をも徴することが適当と判断されるものについて行われる。
 「閣議報告」は、主要な審議会の答申等を閣議に披露するような場合等に行われる。

https://www.kantei.go.jp/jp/seido/seido_2_2.html#seido_2_2

閣議において、どのような案件が扱われているのかは、首相官邸のホームページで開催日ごとに公開されており、確認できます。

上記のページでは、次のような用語説明(案件の種類)がされています。
・一般案件 国政に関する基本的重要事項等であって、内閣として意思決定を行うことが必要なもの
 ・例:アルジェリア国特命全権大使ラルビ・カティ外1名の接受について(決定)(外務省)
 ・例:無償資金協力に係る取極の締結(令和3年度第6次取りまとめ分)等について(決定)(外務省)

・国会提出案件 法律に基づき内閣として国会に提出・報告するもの
 ・例:衆議院議員山本太郎(れ新)提出「検査を行わなくとも臨床症状で新型コロナウイルス感染者と診断してよい」との方針変更に関する質問に対する答弁書について(決定)(厚生労働省)

・法律・条約の公布 国会で成立した法律又は締結された条約を憲法第7条に基づき公布のための内閣の助言と承認を行うもの
 ・例(条約):社会保障に関する日本国とフィンランド共和国との間の協定(決定)(外務省)
 ・例(法律):宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動の促進に関する法律(決定)

・法律案 内閣提出法律案を立案し、国会に提出するもの
 ・例:地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案(決定)(環境・財務省)

・政令 政令(内閣の制定する命令)を決定し、憲法第7条に基づき公布のための内閣の助言と承認を行うもの
 ・例:民法の一部を改正する法律の施行に伴う恩給給与規則の規定の整備及び経過措置に関する政令(決定)(総務省)

・報告 国政に関する主要な調査の結果の発表、各種審議会の答申等閣議に報告することが適当と認められるもの
 ・例:令和3年度第3・四半期に締結された無償資金協力に係る取極について(外務省)

・配布 閣議席上に資料を配布するもの
 ・例:家計調査報告(総務省)

説明はありませんが分類としては「人事」があります。
・例:中央選挙管理会委員の任命につき、国会の議決による指名を求めることについて(決定)

議事録も公開されています。令和4年1月18日(火)のページです。

例として、令和4年1月18日(火)定例閣議案件の記事録(PDF)です。

議事録で興味深いのは、閣議に要した時間かもしれません。上記では7分です。過去の議事録を10件調べたところ、閣議時間は以下でした。
9分
47分
6分
10分
15分
20分
6分
18分
11分
11分

47分と長いものもありますが、平均は10分程度でしょうか。つまり、付議された案件に関して、議論されることはほとんどないと言って良いでしょう。

『立法学』でも紹介されていますが、閣議の雰囲気関しては、後藤田正晴氏の回顧録に次のようにあります。

閣議があるのでしょう。閣議の中身は、閣議事項というものが原則として次官会議の議を経て上がってくるわけですね。そうすると、次官会議で決まるまでの間に相当厳しい論議の結果、これならということでできあがってきます。それだけに割合バランスのとれた案になって上がってくる。だから、閣議そのものはわりに簡単なんです。署名するだけなんですよ。それは各省に異論がないことになっているものが上がってきているわけで、印刷物として提出されている。それに、憲法の規定ですかね、自署することになっている。それは花押です。判こではなくて、届け出をした花押で署名して決裁する。

後藤田正晴, 情と理 -カミソリ参謀回顧録- 上, p.326

この記述にもあるように署名するだけのようです。

閣議が終わったとは、閣僚懇談会というものがあるとされています。

慣例として、閣議に引き続き「閣僚懇談会」(かくりょうこんだんかい)が開かれる。閣議で取り上げられなかった議題がこの席で了承されることがあり、閣僚が自由に意見を述べたり、情報交換を行ったりすることもできる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%96%A3%E8%AD%B0_(%E6%97%A5%E6%9C%AC)#%E9%96%A3%E5%83%9A%E6%87%87%E8%AB%87%E4%BC%9A

閣僚懇談会の正式な出典は見つけられませんでした。

まとめ

閣議は、立法の流れのステップの一つであるとされます。閣議は、意思決定するといっても、署名するだけであり、このステップで悪法が止まることは無いと言えます。

閣議に至る前のステップは次のようなものになります。
・各省庁による原案作成
・省内審査
・各省協議
・内閣法制局審査
・与党審査
これらステップのどこかで悪法が議論されているとすると、事前に国民が何かできることはあるでしょうか。次のことを確認できると良いかもしれません。
1.まず、今後どんな法律案が提出されるのかという情報を入手できる機会があるかどうかです。
2.次に、情報を入手できたとして、その法律案を評価し、検証できる体制を国民として作れるかどうかです。
3.次に、悪法の成立を国民として阻止できる手法を確立できるかどうかです。

参考

[1] 堤 未果, 日本が売られる, 2018
[2] 中島 誠, 立法学, 2020

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