さようなら、『バズ・ライトイヤーのアストロブラスター』。
時が経つのは早いもので、本日、2024/10/31をもって、人気アトラクション「バズ・ライトイヤーのアストロブラスター」はクローズを迎える。
ー正直、書くことなんてないと思っていた。
確かに、小さい頃初めてアトラクションに乗った時に偶然一万点を当て、家族に褒められた瞬間も、修学旅行で友達と競い合った瞬間も、心の奥底に、大切に、大切にしまってはいる。
それでも、私は多くのディズニーファンとは異なり、このアトラクションを心から愛していたかと言われれば、正直に頷けない自分がいた。
私はこのアトラクションのBGSを詳細に調べたわけではないし、結局今日まで「アストロ・ヒーロー」になれたわけでもない。
そんな表面的なものを除いたとしても、いつも自分の頭の中で立てるパークステイの優先順位に、このアトラクションが上位に君臨することはあまり無かったと思う。
そんな私が、最終日を迎えるこのアトラクションに、どんな贐の言葉を送れば良いのだろう。
そんな事を漠然と考えながら、クローズの発表から今日まで生きてきた。
ー結局、「書くこと」が見つかってしまったのも、東京ディズニーリゾートが、やはり私の人生にとって大切な何かであることを思い知らされる。
正直、言葉にするのも憚られるけど、丁寧に綴ってみようと思う。
少し前に、Dオタ仲間が東京ディズニーリゾートをひとりで来訪した事があった。
目的は、「バズ・ライトイヤーのアストロブラスター」の乗り納めだと言う。彼は私と違って、このアトラクションを"愛していた"。
残念ながらご一緒に、なんて事は都合上出来なかったが、彼のアウパ後に舞浜駅まで迎えに行ってあげた。
ー久しぶりに会うな。
ワクワクと、ちょっぴりの緊張を抱えながら駅前で待ち構える。
たくさんのグッズを抱えながら、ゲストが忙しなく行き交うペデストリアン・デッキを気だるそうに歩く彼を一目に見て、これまで培った人生経験全てが私に警告を送っていた。
虚ろな目、荒れた髪、乱れた服。
まだ残暑が厳しい日であったのに、不相応な長袖を着ていることに気付いた時点で確信した。
ー重度のうつ病だ、これ。
詳述は避けるが、状況が悲惨だった。
曲がりなりにも心理学を学んだ身としても、そして何より自分が同じ目に逢ったことがある身としても、彼が置かれている状況は、いつ死んでもおかしくなかった。
それはただ辛い出来事が起きたとかそういうレベルではなく、人生を通して溜まりに溜まった爆弾が、今まさに爆発しようとーいや、爆発している。そういう状況だった。
何より、周りにサポート出来る人間が誰もいなかった。
職場環境も、家庭環境も、交友関係も、何もかもが、彼に牙を剥いていた。
「死にたいとか言っちゃダメだよ」
「生きていたら良いことがあるよ」
「そんなのお前の責任だろ」
周囲の人間が無責任に放つ言の葉は、彼自身の心を完膚なきまでに破壊するのには十分といっても過言ではなかった。
必死に、必死に、傾聴した。
それは辛かったね。私も似たような経験をしたから分かるよ。
それは勿論、カウンセリングの技術をたまたま大学で学んでいたからでもあるがーそんな事よりも、「私はあなたの痛みに理解も共感もできる」ということを伝えたかった。
何だかまるで、私の人生の「答え合わせ」かのようだった。
ー今から遡ること2年前、私はベランダの手すりに足をかけた。
自分の心の中にぽっかり空いた穴は、東京ディズニーリゾートを初めとする数々のエンタメや、恋人から貰った愛すらも満たすことが出来なくてー全てを終わらせようとしていた。
今思うに、早計すぎた自分の決断を生み出したのは、「誰も自分の気持ちを分かってくれない」という疎外感だったと思う。
「死にたい」と弱音を口にすれば、多くの人間が石を投げてくる。
それが怖くて、自分の気持ちを押し殺して生きてきてー。
だからこそ、「生きる」ことに決めた。
私は、死にたい人の気持ちが心から理解できる。
だから、もしいつか、自分の目の前に、私と同じ痛みを抱える人が現れたのなら。
全方位から降り注ぐ槍の、盾になろうと。
ー結局、それから2年間、数々の相談を引き受けはしたけれど、「死にたい」なんて口にするような人が目の前に現れるなんてことはなくて、「やっぱり、そんなに思い詰める人って社会にはいないのかなぁ」なんて不貞腐れる日もあった。
まぁ、そもそも本当に辛い人は、自分から助けを求めになんてこれないし、素直に自分の気持ちを話せるまでに築き上げるべき信頼度の要求値は高い。
それすら理解できないほど、雑に絶望やら希死念慮やらを味わってはいないから、自分が気付かぬうちに取りこぼした人も数え切れないほどにいるのだろう。
季節は嫌でも移り変わり、研究やら、就活やらに心が染まりつつ、
ようやくしんどかった夏の猛暑も終わり、「段々と過ごしやすくなってきたな」なんて思っていた矢先に、
「2年前のあの日」から初めて、
目の前の人間が、
「死にたい」と口にした。
こんな事を言っていいのかのか分からない。
こんな事を思える人間が、相談に乗る器として相応しいのかも分からない。
その四文字をこの耳で聞いた時、心の奥底から、嬉しかった。
やっと、やっと、誰かが言ってくれた。
私の中の赤ペン先生が、2年越しに私の人生に「はなまる」を付けたような気がして、嬉しかった。
ー最低、なのかもしれない。
昔しんどかった時によく聴いていたボカロの歌詞が、今になってグサッと刺さってくる。
ー結局、私は彼の「盾」になれているのかは果たして分からない。
明日にでも死んでおかしくない状況は大差ないし、私ができることは限られている。
自分が思う「正解」を信じて、必死に、必死に、絶望に寄り添うことが、今できる私の最大値だとは思う。
私の中の赤ペン先生は、まだ採点を続けている。
『バズ・ライトイヤーのアストロブラスター』へ。
「死にたかった私」と、「死にたい誰か」を結びつけてくれてどうもありがとう。
毎度の事ながら、当アトラクションに関わった全ての関係者には、頭が上がらない。
そして「死にたい彼」へ。
このブログを読んでいないことを祈っているけれど、万が一発見してしまった時に備えて、言えない本音をここに遺しておく。
あなたの事を想えば、死にたいという気持ちに素直に従って、計画通りに死んでしまうのは、仕方がないことだと思う。
それはあなたの気持ちであり、権利だから、友達として尊重している。
でもー私は正直、あなたには死んで欲しくないと思っている。
『シュガーラッシュ』のアトラクションがリニューアルオープンした時に、隣にはあなたがいて欲しい。生まれ変わったトゥモローランドの景色を、"未来"を、一緒に見て欲しい。
そんな呪言、口が裂けても言えないし、言ってはいけないけどね。
ーうん、今なら心から言える。
私は、『バズ・ライトイヤーのアストロブラスター』を愛している。
ありがとう、そしてさようなら、
『バズ・ライトイヤーのアストロブラスター』。
宇宙の彼方、遥か遠くどこかで、また貴方に会えることを楽しみに、今日も生きてみようと思います。
おわり