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ディズニーシーであった心温まる物語【第2回】

こんにちは。あさ出版noteにお越しいただきありがとうございます。

 今年の9月4日で20周年を迎えた東京ディズニーシー。現在は20周年イベント「タイム・トゥ・シャイン」も開催されています。また、クリスマスシーズン限定の「ミッキー&フレンズのハーバーグリーティング:ディズニー・クリスマス」も開催中です。
 さて、そんな「東京ディズニーリゾート」であった、心温まる物語を今回もお届けします。

前回のお話しは、こちらよりお読みいただけます。


金髪のヒーロー

 大型連休の初日、ディズニーシーはいつも以上にたくさんの人で賑わっていました。
「どのくらい並ぶかな~」
まずは大好きなミッキーに会いに、ロストリバーデルタへ向かったのですが、施設のそばまで行くと、並んでる、並んでる! 想像していた以上に長い列ができあがっていました。
案内を見ると、「70分待ち」
さすがミッキー、大人気です。私は「よし!」と気合いをいれて、最後尾につきました。

並び始めてから

並び始めてから5、6分が経ったでしょうか。
「ミッキーに会いたい!!  ミッキーに会う!!」
突然、後ろのほうから小さな女の子の叫び声が聞こえてきました。
振り向くと、3、4歳ぐらいの小さな女の子がお母さんに必死で訴えています。
「どうしても、どうしても並ぶの! ミッキーに会うの!!」
お母さんは、やれやれといった様子で、
「でもあなた、トイレに行きたいって言っていたじゃない」
とトイレに連れていこうとします。
「イ・ヤ・だ! 絶対に並ぶの~っ!」
頑として動こうとしない娘に根負けしたのでしょう。2人はそのまま列に並びました。

 それから30分は過ぎたでしょうか。列は順調に進み、あと20、30分頑張れば、ミッキーに会えそうです。
「おしっこ!」
後方から、あの女の子の声が聞こえました。
やっぱりガマンできなかったか……。
「だから言ったじゃない!! あれだけトイレに行きなさい、って!」
お母さんがものすごい剣幕で女の子を叱っています。
私は思わず、近くの人たちと眼を見合わせてしまいました。
結局、母娘はそのまま列をはずれ、トイレに行ってしまいました。
「あ、行っちゃった」
「キャストさんに声をかけていけば、元の場所に戻れるのに……」
ヒソヒソ声が聞こえてきます。
でも、もはやどうすることもできません。

しばらくして

 しばらくして、あの母娘が戻ってきました。
おそらく、お母さんに「こんなにたくさんいるから、もうあきらめよう」とでも言われたのでしょう。
女の子は激しく泣いています。
「ミッキーに会いたいよ〜。わ―――ん」
お母さんも疲れてしまったのか、小さな声でなだめています。
列は、私が並び始めたときよりさらに長くなっていました。もう一度、最後尾につくとなると、さらに1時間以上並ぶことになりそうです。
困り果てた様子のお母さんに、泣きじゃくる女の子。

ヒーロー

その時です。

「おかえりなさい、こっちですよ」
という声が聞こえてきました。
さっきまで母娘の後ろに並んでいたカップルの青年の声でした。女の子に向かって手招きしています。

「ここですよ~」

彼の意図がわかったのでしょう。並んでいる人たちも、次々に声をかけ始めました。

「おかえり~」
「あとちょっとだよ」

そして、女の子とお母さんのために、スペースを空けてあげたのです。
「いえいえ、申し訳ありませんから」とお母さんは恐縮して、遠慮するのですが、
「娘さんがトイレに行っていただけでしょう」
「遠慮しなくていいですから、どうぞ」と勧めます。

「ありがとうございます。本当にすみません。ほら、マミちゃん、みなさんが譲ってくれたよ。お礼言わなくちゃ」
と頭を下げながら、青年の前に並びました。

あんなに泣いていたのに、金髪の青年にびっくりしてしまったのか、女の子はピタリと泣きやみ、押し黙ってお母さんにしがみついています。
「せっかく譲っていただいたのに、この子ったら黙っちゃって、すみません」
「いえいえ、いいんですよ。ミッキーに、もう少しで会えるからね」
青年はやさしく女の子に話しかけています。
機転を利かせて順番を譲ってあげた彼の行動に驚きつつ、立派だなと感心しました。

金髪のヒーロー

小さな奇跡

 
 ミッキーとの撮影を終え、次のアトラクションに向かう準備をしていると、先ほどの母娘が出てきました。
 念願のミッキーと一緒に写真を撮ることができてうれしかったのでしょう。女の子は、先ほどとは打って変わって弾けるような笑顔です。ほどなくして、青年たちのカップルが出てくると、自ら駆け寄り、
「ミッキーに会えた~」と報告。
「おー、やったね! よかったな!!」
青年はしゃがんで女の子の頭をなでてあげています。
「うん。ありがとう!!」
 女の子は、ちょっと照れくさそうにしながらも、元気な声でそう言ったあと、ちょこんとお辞儀をしました。 
 その愛らしさに、私たちはほっこり。
「おかえりなさい」のひと言が生み出した小さな小さな奇跡でした。

 私はパークを訪れるたびに、ディズニーの魔法にかかったような気分になります。
 それはキャラクターや舞台、またはキャストによるものだと思っていました。でも、この出来事によって、ゲストが魔法をかけることもあるのだ、と気づかされました。
 母娘と別れ、仲良く手をつないで歩いていく青年カップルの背中を見送りながら、いつかは私も魔法をかける側になりたい、そう思ったのでした。

 お話しはここまでです。最後までお読みいただきありがとうございました。20年前の「東京ディズニーシー」でも、奇跡が起きていたのですね。本書では他にも、全26のステキなお話を収録していますので、お手に取っていただけると嬉しいです。

 これからしばらくは、「東京ディズニーシー」であった、心温まる物語をお届けします。どうぞ、お楽しみに!

電子書籍

また、今までお届けしました「心温まる物語」は他にもnoteにて公開していますので、ぜひお越しください。


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