祖父

急遽、実家へ帰る事になった。祖父が危篤になったからだ。
私の祖父は、あからさまに私の事だけを可愛がる人で、私もそれが当たり前の事だったので、祖父は私に会うために頑張るはずと信じて疑わなかった。
自宅から実家は遠い。いつもは羽田で乗り継ぐ旅だが、どうしても朝一の便に乗りたいので、前日のうちに東京へ移動し、無事に目的の便で地元に到着した。
迎えに来てくれた母は落ち着いていた。自分の父の容態が悪いにも関わらず。
20年前に祖母が亡くなった時はこんなに冷静では無かったが、今回は医師からいつ亡くなってもおかしくない状況と宣言されていたので、既に覚悟が決まっているのだろう。
空港から病院へ移動しながらたわいも無い話をする。主に私の息子の話だった。
病院へ着き、面会した祖父は衰弱していた。率直に言うと、干からびていた。皮と骨のみ。それでも耳は聞こえているようで、私が呼びかけると首をしきりに動かして反応しているのが分かった。
目を開けようとして眉間をピクピク動かし、何か話そうとしていた。聞こえなかったけど、意思は伝わった。

幼稚園から小学校にかけて、私は祖父母の家に毎週末泊まりに行っていた。祖父は可愛い孫の私のために、日曜日の朝ごはんに卵焼きを焼いてくれた。卵を4個も使った分厚い厚焼き卵。砂糖がたっぷりの激甘。私はそれが大好きだった。

ベットに横たわる祖父に、また卵焼き作ってよと声をかけたかったけど、もう卵焼きは作れない祖父がどう感じるか分からなくて言えなかった。
でも作ってと言えば良かった。

もう祖父の卵焼きは食べられない。

今日は甘い卵焼きを作る。

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