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英文契約書における"shall"について

既に有名な話かもしれませんが、英文契約書における一つの終わりなき論争として、"shall"に関する論争があります。この論争に関して、2つの面白い記事を教わりましたので、僕のための備忘も兼ねて、簡単に紹介できればと思います。(記事だけだと味気ないので、いくつかの手元書籍も併せて紹介できれば!)

1.完全廃止説

一つ目の説が、「"Shall"完全廃止説」です。Bryan A. Garnerが唱えている説で、要は、「契約文書においては"shall"を使ってはならない、なぜならば、"shall"の示すべき意味は文脈によって曖昧で、契約解釈における紛争の火種になってしまうからである」というものです。

記事はこちら(ABAJournalの外部リンクです)。"Shall We Abandon Shall?"というタイトル、いいですね。著者のBryan A. Garnerは、Legal Englishの分野では非常に著名な方で(著作は20作以上、最も権威ある辞書の一つであるBlack’s Law Dictionaryの著者でもあります)、この記事の内容も、彼らしい?ユーモラスな筆致で、単純に読み物としても面白いです。

Black's Law Dictionary (11th ed. 2019) によれば、"shall"の意味は以下の5つ(!)と整理されています。たしかに、いずれの用法も見たことがありますね。

1. Has a duty to; more broadly, is required to <the requester shall send notice> <notice shall be sent>. • This is the mandatory sense that drafters typically intend and that courts typically uphold. 
2. Should (as often interpreted by courts) <all claimants shall request mediation>. 
3. May <no person shall enter the building without first signing the roster>. • When a negative word such as not or no precedes shall (as in the example in angle brackets), the word shall often means may. What is being negated is permission, not a requirement. 
4. Will (as a future-tense verb) <the corporation shall then have a period of 30 days to object>. 
5. Is entitled to <the secretary shall be reimbursed for all expenses>. • Only sense 1 is acceptable under strict standards of drafting.

契約書作成において最も重要なことは、一般的にいえば、複数の意味に解釈される余地を残さないこと=ambiguityをなくすことである(Garner, Garner's Guidelines for Drafting & Editing Contracts 14-19 (2019)や、Adams, A Manual of Style for Contract Drafting 185-188 (4th ed. 2018))と考えれば、こんなにたくさんの意味があるshallを契約書に使うことは、紛争の火種を残すことに他ならない、shallはその他のより明確な表現によって代替すべき、というのが、Garnerの主張の骨子です。

My own practice is to delete shall in all legal instruments and to replace it with a clearer word more characteristic of American English: mustwillismay or the phrase is entitled to

というわけです。じゃあどうすればよいか、というところですが、特に義務を示す表現として、Garnerはwillmustを挙げています。ニュートラルな義務表現はwillを使う、"adhesion contracts"(BtoCのような、一方当事者が作成して押し付けるひな形契約)の場合、mustとwillが当事者間の力関係により使い分けられるというものです。willにはもちろん未来(正確には、"a future occurrence")の意味もあるわけですが、Garner曰く、shallが引き起こす混乱を引き起こすことはない(ので問題なし!)とのこと。(以上、Garner's Guidelines, 166-167)

(とはいえ、Garner自身もshallを使わなければならない場面があること自体は認めており、その場合は、"has a duty to"か"is required to"の意味に限定して用いるべきと主張しています(同166-167)。こうなると、以下のAdams説と同じになりますね。)

2.限定使用説

第二の説が、「限定使用説」です。Ken Adams (Kenneth A. Adams) の説で、「"Shall"を使用してもよいが、それは、文の主語に義務を負わせる場合にのみ限定すべきである」というものです。

対象の記事はこちら(彼の運営するウェブサイトへの外部リンクです)。このウェブサイトはその他にも契約書ドラフティングに関する様々な情報が掲載されており、参考になります。

Adams説も、shallが義務以外の意味も含む広い使われ方をしていることを問題視する視座は変わりません(記事に加え、A Manual of Style, 59-60)。ただ、あまりにshallが一般的な法律英語として使われていることに照らして、「shallを用いるデメリットをメリットが上回る」「shallをなくしても紛争は解決しない」「shallを一切使わないことよりも限定して使うことの方が現実的である」等を理由に、限定使用を唱えているというわけです。

- [T]he advantages of this use of shall outweigh the disadvantages, particularly as use of shall is, from the perspective of readers of business contracts, all too standard.
[W]here use of shall can give rise to disputes—if it’s used inappropriately to express a condition—getting rid of shall wouldn’t fix the problem.
It’s just as well that I favor disciplined use of shall—that seems more achievable than getting the transactional world to stop using the word entirely.

Garnerは、shallが義務を示す場合のより適切な表現として、mustとwillを挙げているわけですが、Adamsは、これを"unhelpful"と批判しています。

I have my own one-word assessment of Bryan’s treatment of this subject—”unhelpful.”

当事者の力関係や知名度によって義務表現を使い分けることは不適切であり(特にBtoBにおいて)、また、willを支持するGarner側に明確な根拠がないというのも、その理由となっています。(Adamsのより詳細な立場については、A Manual of Style, 58-63を参照。)

とはいえ、先に述べたとおり両説の差はそこまで大きくはなく、まずはshallを減らすことが肝要であることは変わりません。

But I don’t want to overemphasize my differences with Bryan on this subject. For both of us, the main point is that shall is grossly overused.

3.おわりに

個人的には、Adams説に共感を覚えるところです。実際、shallの持つ義務を示すニュートラルな響きは、willやmustにはない利点であるような気はしており、日常業務で英文契約書を扱う身としては、"shall"を主語に義務を負わせる意味としてのみ用いるよう心掛けたいと思うところです。

Legal Englishはわかりにくい、"Plain English"を目指すべき、という共通認識のとおり、non-nativeとしても、明快で簡潔な英語を目指して頑張りたいと思います。

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画像は(Strunk & WhtieのThe Elements of Styleを除き)こちらで購入した契約書やLegal Englishに関する書籍です。全てに目を通せているわけではありませんが、ゆっくり消化できればいいなと思います。

以下、ご参考までにリンクを貼っておきます(アフィリエイトではありません)。最後のStrunk & White, The Elements of StyleはLegalに関係ありませんが、有名ですし、何となく含めてみました。

Bryan A. Garner, Garner's Guidelines for Drafting and Editing Contracts
...なお、Adamsの書評はこちら(メタメタに批判しています)。
Kenneth A. Adams, A Manual of Style for Contract Drafting
Richard C. Wydick & Amy E. Sloan, Plain English for Lawyers
Matthew Butterick, Typography for Lawyers
Bryan A. Garner, The Elements of Legal Style
William Strunk Jr. & E. B. White, The Elements of Style

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