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地球の裏側に行ってでも見てほしい建築がある。

今回は、留学していたら偶然訪れることになったブラジルでの経験について綴ろうと思います。僕は今でも『SESC Pompéia』という場所の影響を強烈に受けていて、これを読んでみなさんにも興味をもってもらえると嬉しいです。

地球の反対側にすごいものがあるんです。語り出すとキリがないので、今回はざっくりと紹介していきます。


SESC Pompéia(セスキ・ポンペイア)は、ブラジル・サンパウロにある文化・スポーツ複合施設です。元々は1920年代に建設されたドラム缶工場だったものを、1980年代に建築家 リナ・ボ・バルディ(Lina Bo Bardi) によって再設計・改修されました。

特徴

  • 建築デザイン
    リナ・ボ・バルディの代表作の一つで、工場の歴史を尊重しながらも、コンクリートの大胆な新しい建築要素を加えた独創的なデザインが特徴です。ざっくり。

  • 文化・スポーツ施設としての機能
    劇場、図書館、展示スペース、フードコート(閉業の噂あり)、プール、ジム、スポーツコートなど多彩な設備を備えていて、地域住民が集うコミュニティスペースとして機能しています。

  • 社会的役割
    SESC(Serviço Social do Comércio)はブラジル全国にある非営利の社会・文化施設のネットワークで、SESC Pompéiaも地域住民が無料または低価格で利用できるよう設計されています。

建築作品としてだけでなく、地域社会に開かれた文化拠点としても高く評価されているのですが、日本ではその魅力があまり語られておらず。建築メディアで写真を見ることはあっても、そこから伝わる情報はほんの限られたもので、質感がわからない。

このときは人生を変えられるとは思っていなかった。
正直、デザインに緊張感がないもの。

どうしてこんなに人がいるのか?

訪問してまず驚いたのは、平日なのに多くの人が詰めかけていたこと。美術館、図書館、フードコート。スポーツ施設の中もたくさんの老若男女にあふれていました。このときは現代アーティストの展示で、オーディオや映像の作品やインスタレーションなど、中を歩き回るような展示でした。

ではなぜ、杖をつかないと歩けないほどのお年寄りがいるのだろう。

その謎は、この施設の全体をみていくと徐々に解けていきます。

美術館にならぶ老若男女。建築メディアにはこの空気感がなかなか載らない

見てもらうのが何より早い

僕の拙い表現力で伝えようと頑張ってもなかなか厳しいので、あまり世の中に出回っていないSESCの多様な場所( = 時間の過ごし方 × 空間)を捉えた写真ギャラリーを並べることにします。

まずメインの内部空間は、元工場の空間を活用していて、美術館も図書館も、そして機能のない空間もひとつながりに計画されています。

それでも多様な場所がある。例えば、展示空間とワークショップは繋がっているけど、明るさの差によって自ずと性格が異なっています。

む。書いていて違うなと思ってきました。そんな空間の説明は陳腐に思えるほど、人々の営みが雄弁にこの場所の豊かさを語っています。じっくりと彼らに注目して、風景を捉えてみてください。
この円卓の写真に加えて、あと3枚に絞りましたので、どうぞ!


ヒント:チェス

どうでしょうか。素晴らしい時間が流れています。

つまりここでは、美術館の展示をみない人でも、ふらっと美術館で休憩していることを誰も咎めないんです。何をするかは、本人達の自由。ブラジルなので、音楽をかけて踊っている人も他の日には居たかもしれません。

屋外では、ビキニ姿の人々が横たわっている写真が有名ですが、実際にそういう男女もいて、半裸で座っているおじさんもいました。それが自然な状態で、その人が過ごしたい時間なんでしょう。暑いですもん。

戻って、美術館前。ぐるりと施設をみて、すっかり高揚していました。
皆、この場所が好きだから、目的もなく来ているんじゃないか?手前のおばあちゃんは、なんとなく、朝起きたらここに来るのだ。いつもの椅子に座って新聞を読み、近所の友達と偶然に出会い、ランチをして、おしゃべり。そろそろ夕飯の支度に帰ろうか。そんな日常がありありと想像できる。

世界にはここまで日常に溶けこんだ場所があるんだ。地域に愛されている場所があるんだ。

ここでは割愛しますが、この出会いが私の人生を変えてしまいました。

側溝に思いを馳せる

写真がまだまだあって続編を書くつもりですが、最高の1枚があったのでここに紹介します。

側溝です。道路の脇にある網っぽい金属とかコンクリで蓋がしてあるやつです。デザインするとなれば、普通は隠します。「排水設備」ですから、空間からノイズを減らしたいとすれば、視覚的には隠すのがセオリーです。
でもボ・バルディの発想は違った。砂利敷きにして、幅広にしてまで開放してます。その上でこどもたちが遊ぶんです。遊びたいですもん。

この建築の本質は、きっとこういうところにあります。
ほかに挙げるとすれば、配管に色が塗ってあるのですが、

塗るどころか、カラフルに何色も使っています。

心理的安全性のデザイン

おかしな話に聞こえるかもしれませんが、公共的な場所を設計するときに、この配管たちをよく思い出しています。
これだけ空間が「個人の感覚」のようなもので構成されていると、人々は無意識に"心理的安全性"を感じるんじゃないかと思うんです。自分だって自由に振る舞っていいんじゃないか、と。

そもそも、ボ・バルディはイタリア人で、夫がブラジル政府に呼ばれたことがきっかけで移住したものの、結果的にはブラジルの文化や人々をすっかり気に入り、自らの意思で生涯にわたってブラジルで建築をつくり続けた人です。
人々を愛して理解していたからこそ、愛されるものを設計できるんだろうな…と、感嘆の思いです。

おまけ。完全建替えであるホワイエがかっこいいのでメディア掲載されがちです。でも、見るべきはここじゃない!

推しよ、ひろまれ。

ということで、ざっと『SESC Pompéia』の魅力を紹介させてもらいました。こんなにも人々がありのままに過ごせる場所が日本各地にできたら、どんなに素晴らしいだろう。

できれば、場づくりに関わるみなさんには地球の裏側へ足を伸ばして欲しいです。ブラジル旅は最高でしたよ。(安全面は十分にお気をつけて。お手伝いできることがあればご連絡ください!)

フードコートで飲むガラナ。サンパウロは量り売りビュッフェ形式の
飲食店が多くあり、だいたい美味い

そういえば、喫茶ランドリーのお二人がリスペクトしている場所もコロンビアにあるとのことで、いつか行ってみたいものです。

それではまた!


浅子雄祐(あさこゆうすけ)

営み × 空間のデザインで『人々の日常に溶けこみ、永く愛される場所』をつくる建築プロデュース・設計事務所SPROUTZ Studio の代表。建築家・拠点プロデューサー。場づくりを妄想するところから一緒に関わるお仕事が多いです。ウェブマガジンBLOOOM!編集長、日本スウェーデン建築文化協会代表、団地テーブル共同主宰。

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