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アリさんの話。その2
なんとなくベランダのアリの数が多いなとは思っていた。
当時、ベランダガーデニングに凝っていて、アブラムシのつく植物もあった。
それをめがけてアリがくるんだろう。
そう思って気にしていなかった。
やがてアブラムシがつく植物がベランダからなくなっても、アリの数はいっこうに衰えない。
それどころかますます増えたような気がする。
アリに好まれるとは聞いていない植物の葉のうえも、アリたちがすまし顔で歩いて行く。
いったいどこから来て、どこへ行くのか。
気になって、じーっと観察してみた。
結論から言うと、行き先は分からなかった。
我が家の範囲をこえて、どこかへ向かう姿を見送った。
しかしどこから来たのかは、すぐに分かった。
分かりたくなかった。
我が家の範囲内から来ていたのだ。
それはもう、「来ていた」ではない。
我が家で「発生」していたのである。
なんということでしょう…。
数々ある鉢の中でも、一番大きな鉢。
それは「墨田の花火」という品種のアジサイだった。
狭いベランダの中でも、2年に一度は植え替えていた。
そのため、土の具合もよい。
飛んできた女王アリは、「ここはいい土だわ」と思ったに違いない。
天敵も来ないし、人間のいたずらっ子に棒で巣をかきまわされる恐れもないし。
ここが気に入った彼女は巣を作ってしまった。
私に断りもせずに。
許可を求められていたら、絶対お断りしたのに。
そして彼女の働きアリたちが、クリームあんパン事件を起こすのである。
はっはっはっ。女王アリよ。
私に断りもなく巣など作るから、お前の手下を掃除機で吸い込んでやったわ!
おまえの手下が数百程度ならば、ほぼ全滅だろう。
はーっはっはっ!
しかしそうは問屋がおろさなかった。
クリームあんパン事件後も、ベランダのアリは元気いっぱいお出かけしていくのである。
そこで私はダンナにアジサイの植え替えをなるべく早くしてくれるように頼んだ。
作られた巣を見せ、クリームあんパン事件について語ると、ダンナはわりとサクッと動いてくれた。
巣だけなら、サクッとはいかなかっただろう。
やはりクリームあんパンがきいたと思われる。
ダンナはとんかちを持ってベランダに出た。
アジサイの鉢は素焼きのものだから、割って壊すという。
今にして思うと、なぜ鉢を壊す発想になったのか分からない。
ふだん植え替えのときには土をほぐすようにして、抜き取る。
アリの巣が出来ていることが、彼の気持ちに変化を与えたことは確かだ。
ともかく彼はとんかちで鉢を叩いた。
乾いた音がして、鉢は壊れた。
アジサイの根元に、鉢の形の土がしっかりくっついている。
このままではどうしようもない。
シャベルを土に差し込む。
とたんに、大量のアリが落ちた。
そしてザーーーッと四方八方に流れていった。
「一瞬、アリの波に襲われた」と彼は表現した。
その後、何回かシャベルで土を崩して、そのたびに大量のアリが流れていった。
その後、ベランダでまったくアリを見かけなくなった。
* * *
クリームあんパン事件はこちら。
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