赤い糸は切なくて。
赤い糸を見ると、中学の卒業式の頃を思い出す。
卒業間近の放課後のこと。
シーンとした昇降口で、私はとあるクラスの下駄箱の前に立った。
そして裁縫箱から持ってきた10㎝ほどの赤い糸を、A君の上履きの中に入れた。
こうすると相手の好きな人が分かるというおまじないがあったのだ。
好きな人の好きな人。
それが自分だとはまったく思わなかった。
なぜなら彼は、私のことを好きだというB君を、わりと積極的に応援していたからだ。
A君がどんな女の子を好きなのか、ただ知りたかった。
翌朝、私は普段よりかなり早く登校して、下駄箱を確認した。
赤い糸はきちんと上履きの中に収まっていた。
しかしA君が誰を好きなのかは分からないまま、とうとう卒業式が終わった。
卒業式のあと、友だちふたりと恋バナになった。
Cちゃんはすでに好きな人のところに行って制服のボタンをもらってきたという。
相手は彼女持ちで第2ボタンではないけれど、好きになってくれてありがとうと言われたそうで、満足だという。
DちゃんはB君が好きだという。
あの、私のことを好きだというB君だ。
告白したのか、ボタンをもらったのかなど、聞けはしない。
ふたりは私に、A君のところへボタンをもらいに行こうと言った。
卒業式のあとである。
そういう空気がまん延している。
ついうっかり、うなずいてしまった。
DちゃんがA君の家まで案内してくれることになった。
歩きながらふたりは、A君はいい人だ、そのA君を好きになるとは見る目がある、と私を持ち上げた。
それなら彼女たち自身は見る目がないのか。
はたまた自分はもっと上だと思っているのか。
よく分からない。
なんだか微妙だ。
さらにDちゃんがいう。
A君の好きな人を知っているのか、と。
知らないと答えると、あっさり教えてくれる。
私と同じ部活だけど仲良くはない人だった。
この前聞いたんだ。でも相手はなんとも思ってないから大丈夫。A君はすごいらしいけどね。
赤い糸のおまじない。効果あったわ。
しかしDちゃんよ、誰の味方なんだ。
もしや、Dちゃんの好きな人であるB君が私のことを好きだから、意趣がえしか。
意地悪をするつもりではなくとも、意地の悪い気持ちがひょっこり顔を出したのかもしれない。
なんだか複雑過ぎる。
やがてA君の家に着いた。
私は無事に第1ボタンをもらった。
その際A君はご丁寧にも、第2ボタンはあげたい人がいるから他のでもいいかと聞いてくれた。
正直であり、また誠実でもある、と思う。
しかしこちらのハートはもうヨレヨレである。
好きですとは言わなかったが、ボタンをもらいに行ったことで、気持ちを伝えることは出来た。
それでよしとするしかなかった。
それから20年後。
クラス会が開かれた。
20人ほどが参加したのだが、偶然A君と隣同士の席になった。
お互い大人になった。
さらにいうならお互い既婚者だ。
何もなかったかのように、和やかに会話を楽しんだ。
最後はじゃあまた!とお互い笑顔で手を振った。
切ない想い出は、ほっこりした思い出に変わった。