【小説】牛島 零(8)
銃
僕の運命を変えた日、五月三十日。僕は地域のごみゼロ運動に参加していた。行きたくもないが、日曜日だし家にもいたくないのでしぶしぶ参加したが、僕以外の高校生は一人もいなかった。近所には何人か同級生がいるはずだが全員が欠席した。
おばあちゃんやおじいちゃんが僕のことをほめてくれたがいまいち反応に困る。そんなに話したこともない人に褒められてもうれしくない。
ごみゼロ運動が始まると各自ゴミがありそうなところへ向かう。僕はたまに行く公園へ向かった。ここの公園は薄暗いため絶好のポイ捨てスポットである。ここでゴミ袋をいっぱいにして帰ろうと思った。
トングに軍手・ゴミ袋。首にはタオルを巻いて歩いていた。ちらほら小学生が見られることに驚いた。今の小学生はちゃんと参加するのかと感心した。
公園についたのでごみを集めた。当たり前のように使用済みコンドームが落ちていて嫌な気持ちになった。日当たりも悪く、人も来ない公園なため草も茂っていた。
草の中をトングでかき分けると黒い何かがある。
「うそだろ、おい」
そこには銃が置いてある。僕はしゃがんで銃を手に取り確かめた。マガジンを外すと実弾が二発入っている。マガジンを外した状態で引き金を引いてみた。弾は出てこなかった弾が装填されていなかった。ということは二発しかそもそも入れようとしていなかったことになる。たぶん。銃のことに関してはあまり詳しくないが、エアガンの原理だったら、そういうことになる。
僕はすぐに腰かけバッグにいれた。なぜかわからないが入れなければならないと感じた。警察に渡せばよかったのだが、何か自分が変われるような気がしたんだ。
半分しか埋まっていないゴミ袋を自治体の会長に渡した。そそくさと家へ帰った。銃を見ているとものすごく落ち着く。なんだろうな、この気持ち。
そうこうしていると下から母の夕飯ができたという声が聞こえてくる。
父はすでに椅子に座って僕と母が席に着くのを待っていた。三人がそろい、いただきますをした。
「今日のハンバーグもうまいな」
父が母にお褒めの言葉を献上する。僕も母のハンバーグが好きである。僕はサラダから食べ始めた。味がしなかった。次にハンバーグを食べたが同様に味がしない。
「味付け変えたの?」
母親が僕の顔を怪訝そうに見る。父がすかさずフォローする。
「いやそんなことないよ。いつもと同じだけどな」
僕は味がしないハンバーグを食べても意味がないので自室に帰ることにした。
心では銃を持って緊張してはいないと思っていたが、身体は緊張しているのか、生きている心地がしない。
こんな時、根尾ならどうするだろうか明日聞いてみよう。
翌日根尾と学校に行く際に銃をもっていることを話す。
「あのさもしも根尾が・・・」
言葉に詰まる。
「なんだよ」
やっぱり単刀直入に言おう。
「誰にも言わないでほしいんだけど、実は昨日本物の銃を拾ったんだよね」
「は?どういうことだよ」
「いや、本当にそうなんだけどさ、ことばの通りなんだよ」
根尾はまだ信じてくれそうになかった。こうなったら実物を見せるしかない。僕はバッグを開いてこっそりと見せた。
「これがお前が言ってた実銃か?」
まだ信じてもらえないらしい。僕はポケットから二つの弾丸を出した。
「おい、嘘だろほんもんじゃねーか」
根尾はビビっていた。
「これ警察沙汰だぞ。どうして隠し持ってるんだよ」
「そうなんだけど、どうしても持ってなきゃいけないなと思うんだ」
僕の嫌な予感は当たる。
「まあいいよ誰にも言わない」
「ありがとう」
それから一言も話さずに学校まで行った。
昇降口についた時に根尾は一つだけ約束した。
「この二つの弾丸は、一つはお前のために使う。二つ目は俺のために使うことにしよう。いいか?」
「いや使わないよ」
「じゃあ警察に渡すか?」
「いや」
「これは交渉だ。お前は銃を持ち続けたいんだろ。だったら警察に言われたくないよな」
「まあいいよ。わかった」
「よし」
根尾は上履きに履き替えてすぐに教室へ向かった。
根尾は何を考えているんだろう。
僕も教室へ向かった。教室へ入るとすぐに美咲が僕に話しかけてきた。
「どうして私が怒っているのかわかる?」
美咲は怒っていたのか。初耳である。
「いや分からない」
「金曜日」
「ヒントより結論を先に言ってくれ」
僕は美咲をかわして自分の席へ向かった。すると美咲が僕の上着の袖をつかんだ。
「話を聞け」
「はい」
僕はなんかやばいことをしたらしい。さっぱりわからない。
「金曜日委員会の集まりがあったのに帰ったでしょう」
そのことか。先週の金曜日は根尾と少年たちとサッカーをしていた。前日に委員会があると知らされていたが、根尾はそれより二日前に約束していたため根尾のほうを優先した。
「いや、用事があった」
「なら先生とか私に言ってよ。すごい怒られたんだから」
僕と美咲は同じ美化委員会である。
「まあいいわよ。でも明日から持ち物検査だから明日早く学校に来ること!分かった?」
「うぃ」
僕は席に着く。朝の会が終わり、一時間目の準備をしていると美咲からまた話しかけられる。
「ねえ、また金曜みたいなことになると困るから連絡先教えてよ」
俺と美咲は去年も同じクラスだったが連絡先を交換していなかった。
「おん」
俺はスマホを取り出し電話番号を読み上げた。
「090―XXXX―XXXX」
「SEN交換すればいいじゃん」
美咲は笑っていた。SENとはSNSの一種でメッセージや通話などができる。
「いや、やってない」
美咲は腹を抱えて笑っている。普段の僕ならくっそキレてるが今日は笑ってその場を済ませた。僕は今ここで、やつの頭を打ちぬくことができるからだ。
「それじゃあダウンロードして」
「わかった」
スマホの画面を美咲に見られた。
「え?」
「なんだよ」
「アプリ何にも入ってないじゃん」
スマホは検索と母からの電話を受け取るためにしか使わないため、アプリを何もいれていなかった。美咲は再び腹を抱えて笑った。
「これ、店に置いてある体験用のスマホじゃん」
僕は微笑んでスルーした。
「ダウンロードした。SEN」
「電話番号入れてパスワード決めて」
「うぃ。できた」
「はい、これ私のアドレス」
「うぃ」
僕のSENには美咲のアカウントだけ表示された。内心うれしいと思いながらも笑いを抑え男としての威厳を守った。
チャイムが鳴ると一時間目が始まった。授業が始まるとスマホがバイブレーションで震えた。通知を見てみると「MISAKI」の文字が出ていた。「MISAKI」というのは美咲のSENでの名前である。
「よろしく」と、書いてあるスタンプが届いた。僕はなんて返したらいいのかわからなかったのでスルーした。
一時間目が終わると美咲が僕に話しかけてきた。
「なんで怒ってるかわかる?」
いや、知らんわ。
「わかりません」
間髪入れずに美咲は答えた。
「メッセージ見たのに返信しないのはダメだよ」
「いや、そんなこと言われても」
「情弱下村君にはわからないと思うけど、これは既読スルーという日本国憲法で禁止されている行為なんだよ」
「スケールでかすぎだろさすがに。返信しなきゃダメだったんだな」
「そうだよ」
「ごめんな。そうだよな、悲しかったんだよな」
僕は泣いたふりで美咲を精神的に攻撃した。美咲は明らかに嫌そうな顔をした。
すると、クラスで一番かわいい女子である牛島が話しかけてきた。
「下村君ってそんな喋る子だったんだ」
僕は女子の耐性がないため照れて下を見てしまった。すると、美咲がフォローする。
「下村は人見知りが激しくて女子とあんまり話せないんだよ。あ、男子もか」
僕はぐうの音もでなかった。
「へー、下村君はシャイガイなんだね」
牛島も気まずい空気を作らないようにフォローしてくれた。するとスマホに通知が届く。美咲からだ。「おい、鼻の下伸ばしてんじゃねーぞ陰キャきもいぞ」と。僕はゆっくりと美咲のほうを見ると牛島と機嫌よく話していた。余計怖くなった。
二時間目のチャイムが鳴る。牛島がいなくなったのを確認してメッセージをMISAKIに送る。「牛島めっちゃ可愛かったな」と。さて美咲はどう出るか。「お前マジで殺すぞ。調子乗んな」とすぐに返信が来た。
神様、ねえこれって脈ありですか?
銃を持ってからかはわからないがだいぶ調子が良い。