【小説】牛島 零(3)
小中学校
こんな僕にも友達がいる。根尾である。小学校二年生の時に出会って、それ以来、中高と一緒である。根尾は僕とは違い活発な性格である。高校も同じ高校を受験して無事合格して、僕は高校に入ってから彼としか話していない。
根尾は僕にいつもアドバイスをくれる。勉強の仕方から体育でのサボり方など様々なことを知っていた。自分の知らない世界を知っている根尾は、僕にとって救世主のような存在である。
根尾は決断力に優れているが言葉使いが悪いため友達がいないと話していた。加えて、ものすごく大人びていた。
僕は幼稚園・小学校の始めまで友達どころか先生とも話したことがなかった。あまりにもしゃべらないので先生たちが会議をして、ことばの教室に入れられるところで助けてくれたのが根尾だった。根尾が、会議中に話を盗み聞ぎしていて、僕にやばいということを伝えてくれ、友人のふりをしてくれた。結果、友人になりことばの教室に入れられることもなくなった。今でも感謝している。
しかし、こんな仲が良い根尾でも知らないことがある。根尾の下の名前だ。同じクラスになったこともなく聞いたことは無い。僕はずっと根尾のことは根尾と呼んでいるし気にしたことがない。これからもずっと根尾は根尾であるためそこまで気にしていない。
小学校四年生になると、僕の両親は共働きになり平日は帰りが遅くなってしまった。そのため、学童に入ることになった。根尾が学童にいた。学童は根尾と遊ぶことができるため楽しかった。根尾は少し変わった遊びが好きだった。
根尾は学童の教室で遊ぶことをひどく拒んだ。外で遊ぶことがほとんどだった。インドア派の僕は根尾がいればよいと思っていたため、根尾と共に外へ出た。
根尾は外に出ると体育館裏にある林に向かう。僕も後ろに続いた。今では考えられないが、草むらの中に歩くというのは当時気にしていなかった。根尾はポッケからガムテープを取り出すと林の草をまとめた。僕が手伝うよというと、自分でやりたいんだと一人で頑張っていた。僕はそれをただ見ているだけの時間が多かった。とりかかって1か月ほどたった時、学校で問題になった。体育館裏の林の草のほとんどがガムテープでくくられていると。誰がやったのか話題になったが根尾も僕も口を開かなかった。根尾は自分と僕だけが犯人を知っていることに喜んだ。
「これで二人だけのヒミツを作れたな」
「僕は何もしてないよ」
「君は止めなかっただろ」
僕は何も言えなかった。今思うとこいつはサイコパスなのだろう。満面の笑みだった。
最終的に学校が動いて草を刈った。ガムテープだけを取るとなると面倒なので、林を丸ごと刈ったらしい。
根尾とは綺麗になった体育館裏でサッカーをするようになった。根尾の狙いが、ここでサッカーをすることが狙いだったのなら根尾は相当な策士である。
根尾がサッカーをするというのは、パスをするのではなく根尾がシュートをするのを僕が取りに行くというサッカーである。サッカーも多様性の時代なので僕は気にしてはいなかった。それを小学四年生の終わりまでずっとやっていた。
小学校五年生になるとなぜか先生からサッカー部に誘われた。根尾を誘うのならわかるが、なぜ僕がサッカー部に入るのだろうと思った。サッカーが好きな根尾は絶対にサッカー部に入るのだろうと思ったが入らなかった。それを知ったのが、入部届を提出した後だった。
それ以降の小学校の思い出は無い。部活に小学校生活を奪われた。
そのころ、よく根尾には伝説のボール取りだといわれた。正確にはキーパーというポジションである。
中学に入ると根尾の奇行は加速した。中二の夏前、中学校にニトログリセリンを持ってきた。簡単に言うと爆竹の威力が強いバージョンである。
「こんなの持ってきて、いったいどうするんだ?」
「楽しいことしようや」
「ん?」
根尾はニトログリセリンを昼休みの時間に二宮金次郎像にぶっかけた。僕は慌てた。
「ばれるよ、こんな人数がいたら」
「よく考えてみろ、昼休みにやればだれにもばれないだろ。昼休みに二宮金次郎を見るようなやつはいるか?」
「いない」
「それが正解だ」
昼休みが終わる前に四階へ走った。二宮金次郎の真上の教室である美術室へ入ると、ちょうどチャイムが鳴った。
根尾が白い男の石膏をもって、開いていた窓から下に落とす。根尾は落とした後、僕のほうを見て優しく微笑み両手を広げた。僕は彼に見とれていると、爆発音が下から聞こえた。
すぐに、悲鳴も同時に聞こえてきた。根尾はエンターテイナーのように、右手を前に左手を後ろに深くお辞儀した。僕は思わず涙し、拍手した。
しかし、根尾は僕に目を向けずに教室へ出た。僕は精神を取り戻し後を追った。
根尾は同じフロアの端にある図書室で、貸出禁止図書を返しに行っていた。図書館司書の人にこっぴどく怒られたが根尾は笑っている。相当仲がいいらしい。根尾は五時間目が始まっても図書館司書とだべっていた。もう行きなさいと図書館司書に追い出され、自分たちのクラスにそれぞれ向かった。
クラスでは二宮金次郎が爆発したことが騒がれていた。職員室で会議が行われていたため先生はいなかった。僕は机に突っ伏していつものように寝たふりをしていた。
どうやらこの爆発事件のことを「二の金爆発事件」となづけられたようだ。
ネーミングセンスはまあまあだなと思いながら静かに笑った。
黒板側のドアが開き先生が入ってくる。
「はい静かに」
静まり返るわけもなくクラスの自称ムードメーカーが先生に聞く。
「あの爆発は何なんですか?」
先生はそいつの質問に答えもせずに話し始める。
「今日は早く帰ることになった。早く支度して帰れ」
何か触れてはならない雰囲気を出していた。僕は難しい顔をしながら帰り支度をした。
さて、どうでもよい話はこのくらいにしておいて本編へ入ろう。
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