「くさいはうまい」と父の思い出と、台湾。
「くさいはうまい」という本を読んだ。
亡くなった父が20年以上前に読んでいた記憶があり、本屋で見かけて懐かしくなったので購入した。
世界の発酵食品や臭い食品について書かれており、紹介されている多くのものは臭そうだけど美味しそうで、読みながら段々とお腹が減ってくる本なのである。
臭い食べ物と父の思い出、それはドリアンである。
以前家の近所に大きな果物屋さんがあった。
その店にはドリアンも売られており、いつも気になっていたが買ったことはなかった。
ドリアンを気にしていた理由は、ジャポニカ学習帳にある。
ジャポニカ学習帳とは、主に小学生が使うノートで、表紙は花や虫の写真になっていて、裏表紙に植物などの豆知識コラムが載っているのだ。
そのコラムにドリアンの説明が載っていて、「ドリアンは果物の王様と呼ばれている。独特な臭いだが、果実はチーズのように濃厚で美味である。」というような説明があった。
たびたび授業中にそのコラムを眺めては、「ドリアンってどんな味なんだろう…。」と想像を膨らませていた。
チーズのように濃厚な果物の味というのが気になったし、なおかつ果物の王様というくらいなのだから、とてつもなく美味しいのだろうと期待していた。
そして期待が募ったある日、ついに果物屋さんでドリアンをねだり、買ってもらえる事になった。
家族は全員ドリアンを食べるのが初めてであった。
夕飯のデザートの為冷蔵庫に入れていたドリアンはラップにくるまれており、その時は特に異変を感じなかった。
しかし、夕飯を食べている時にどこからともなく都市ガスのような匂いがしてきた。
家の中のどこかでガス漏れしているのかと思い家族で騒然とした。
結局、冷蔵庫の中から臭いが発せられているいうことが分かり、そこでやっとドリアンの正体に気づいたのであった。
ラップにくるまれ、冷蔵庫に入っているのに臭いが漏れ出してきたという事実にまずは衝撃を受けた。
「チーズのような濃厚さ」「独特な臭い」という言葉から、てっきり甘いクリームチーズのような香りがするのであろうと勝手に妄想していた私は、ドリアンの本当の臭いを知った瞬間、一気に期待が崩れ落ちた。
自分からねだっておきながら、いざ食べてみようとなった時には、箸の先に3mmほどつけたドリアンを舐めて、それ以上は口にしなかった。
母もあまり箸が進んでいなかったが、父だけが突然もう一口、もう一口、と食べ出した。
「初めはすごく臭いけど、二口目を食べると臭いがしなくなって、すごく甘くて美味しい。」
と言って、食べるのが止まらなくなったのである。
母と私は心配になって、「鼻血が出るかもしれないからやめておきなよ。」と言って父がそれ以上ドリアンを食べるのを止めた。
父はその後何日かに分けてドリアンを完食し、しばらくしてからも「ネギの臭いを嗅ぐだけでドリアンが恋しくなる。」と言っていた。
ドリアン以外にも、パクチーや薬味、くさやが好きだったり、シュールストレミング(フィンランドのニシンの缶詰「世界一臭い食べ物」と言われている発酵食品)を食べる会を開いたりなど、クセがあるとされている食品には目が無いのだった。
そんな父が「くさいはうまい」を読んでいたので、とても印象に残っているのである。
そして私は「くさいはうまい」を携えて、先日友人と台湾に行った。
旅の目的は、観光と「色々なものを食べる」ということであった。
せっかく「くさいはうまい」を持ってきているのだから勇気を出して「臭豆腐」(独特な臭いの発酵液につけた豆腐の料理)を食べてみようと思った。
「臭豆腐」がどのような臭いかという説明が難しいのだが、市場で近くに臭豆腐が売っていると誰もが分かるような臭いである。
食べるのに勇気がいるが、ここで食べなければ後悔すると思ったので、友人に付き合ってもらい店内に入る事にした。
臭豆腐は揚げ、焼き、煮込みなど色々な調理方法があるようだが、私たちの入った店は煮た状態の臭豆腐を出す店だった。
小さい土鍋のような器の中に煮汁が入っており、その中に豆腐がほぼ1丁分くらい入っているものであった。
煮汁からは臭豆腐の臭いがしっかりとしていたが、豆腐自体はそこまで臭いはなかった。塩味は煮汁の方についており、豆腐は少し苦味とコクがあって、美味しく頂けた。ビールか焼酎が欲しくなったが、どうやらお酒類は売っていなさそうだったので、お酒に合う事を想像しながら食べる事にした。
ふと、もしも父が臭豆腐を食べたら何と言うだろうか、と思った。
シュールストレミングが食べられるのだから、きっと臭豆腐も気にいるのだろう。
臭かったが、どことなく落ち着く味だった。
台湾の旅では臭豆腐の他にもたくさん面白いものが食べられたし、面白い場所にも行く事ができた。
自分の食い意地に付き合ってくれて、本当に友人に感謝している。
これを機に色々な臭い食べ物や面白い食べ物にに挑戦したくなった。
ちなみに「くさいはうまい」の本の後半は、かなりパンチの効いたビックリ食べ物ばかりが紹介されている。
私の中で、一生に一度は味わってみたいという好奇心と、恐怖とが行ったり来たりしている状態である。
もしも今後勇気を出して、臭いor面白い食べ物を口にしたら、紹介していきたい。
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