職務分析を行わない職務評価の問題点
同一労働同一賃金に関する判例が立て続けに出ました。この際、職務給制度を導入しようと思われる会社も多いことでしょう。
しかし、厚生労働省のウェブページでも、職務分析・職務評価導入支援としつつも、職務分析に関しては特に触れられておりません。職務評価の具体的な方法が示されているだけです。この点について、少し考えをまとめたいと思います。
1.職務分析を行わず、職務評価を行ったらどうなるか
職務評価を行うためには、どんな仕事を行っているか確認しなければなりません。
例えば「従業員ごと、あるいは同一職種ごとに、行っている仕事の一覧を作成してもらう」「組織図を用いて、行っている業務を洗い出す」「ヒアリングを通して確認する」など、色々な方法がありますが、これだけではただ単に現在行っている仕事を確認しているにすぎません。
この後に職務分析を行わず、職務評価を行ってしまったらどうなるでしょうか。行っている職務評価は、現在誰かが行っている仕事の内容を評価することとなり、現状に合わせた評価が行われることになってしまうでしょう。
これでは、会社として、全従業員が適正な業務を行っているのか、不要な業務を行っていないか、そういった棚卸をする機会を逸してしまいます。何のために労力やコストをかけて、職務評価を行うのか、見失ってしまいます。
労力やコストをかけて職務評価を行うのですから、何らかのメリットや成果がなければ、ただの無駄になってしまいます。
また、従業員側から見た場合にも問題点があります。例えばある職についている従業員が、ステップアップして上位職に就こうと思った時に、何をできるようにならないといけないのか、どのような権限が与えられるのか、こういったことがよく分かりません。
これでは従業員の主体的なキャリアアップを促すことはできないでしょう。
2.現状追認型の業務評価のさらなる問題点
これは職務分析を行わない場合だけでなく、人事評価/賃金制度を導入する際にも同じ問題が起きますが、現状追認型では、将来的にどれくらいの人件費がかかるのか、おおよその見通ししか立てられません。
どういうことかというと、職務分析を行わず、現在の各従業員の職務と賃金に合わせて、職務等級表を作成したとしましょう。すると、数年後に誰がどの職務等級に該当するか、全体としてどれくらいの賃金になっているかは、過去の実績や人事担当者の勘で決まることになってしまいます。
実は、人事担当者の勘というのは当たります。なぜなら、想定している職務等級の分布に合わせて、人事考課を行っていくことができるからです。むしろ、無意識のうちにそのような人事考課を行ってしまうかもしれません。
これはどのような結果になっているかというと、直感で想定した総人件費に合うように、人事考課が行われる=人件費抑制のための賃金制度導入になってしまいます。逆にそのようにしないと、売り上げに対して人件費が増大し続けた結果、経営が苦しくなってしまう可能性があります。どちらにしても、このような制度導入では、従業員のモチベーションは間違いなくダウンしてしまいます。
3.戦略があってこその人事制度
組織論でよく出てくる、7S戦略というフレームワークでもそうですが、企業におけるどんなことであっても、まずは戦略を念頭に内容を考えなければなりません。このフレームワークは、アメリカでは大原則として色々な場面に出てくる一方で、日本ではあまり重要視されていないように感じます(文化の違いを感じることができ、非常に興味深いです)。
ここで考えたいのは、企業も一つの組織ですから、何らかの戦略を立案していて、それに従って経営が行われているはずということです。
そのため、大事なことは戦略を実行に移すために、どのような組織が必要で、どのような業務があり、現状はどのような課題があるのか、はっきりさせることにあります。これらをはっきりさせないままに(現状のまま)職務評価を行っても、会社は少しも良くなりません。
そして職務分析を行った後は、その職務に関する職務記述書を作成して、その職にはどんな人がつけるのか、どんなことが求められるのかはっきりさせ、さらにマニュアルを作成して、その職に就いた人が求められる業務を滞りなく行えるようにしましょう。
この点が、アメリカの組織の強いところです。先日読んだ小説でもこれに関する記述があり、紹介しましたが、レベルの高くない人間10人で、ちゃんと10の力を発揮する組織を作るというのは、やはり基本であり重要だと考えます。
4.経営の数字を考えてから、賃金制度を考えましょう
総人件費に関しても同じです。まずは戦略、そしてそれに基づく計画を考えてから、賃金制度を考えましょう。
具体的には、例えば今後5年の売り上げはどのような見込みでしょうか。設備投資はいかがでしょうか。キャッシュはどれくらい残るでしょうか。借り入れはどんな状況でしょうか。
こういったことを考える中で、想定しうる総人件費を考え、それに合うように賃金制度を考えます。
戦略を達成するために計画を考え、組織・人事制度を作る。そして実行に移し、計画とのずれを修正していく。これを愚直に行うことこそが、不確実性が増す世の中で、着実に成長する手段であると考えます。