Sergei Polunin, "Take Me to Church" by Hozier, Directed by David LaChapelle

映画『DANCER』を観てきました。

邦題が『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』と、長ったらしく説明的なのは、彼が史上最年少で英国ロイヤルバレエのプリンシパルになったものの、僅か2年で電撃退団した為、「ヌレエフの再来」「21世紀のニジンスキー」とまで言われる天才でありながら、日本での知名度が低い為でしょうか。

映画化が決まり、日本のTVに出演した彼を観て、初めてこの動画を観た時は、重力無視の跳躍!ブレない回転!完璧なポーズ!とその技術と身体能力に興奮したのですが、映画の終盤で同じダンスを観た時の感想は全く違うものでした。

映画はドキュメンタリー方式で、セルゲイ本人、家族、ロイヤルバレエ時代の仲間、恩師達のインタビューと舞台映像で、彼の生い立ち、人となり、電撃退団の真相、その後の復活までが明かされていきます。

ここからはネタバレ含みます



セルゲイはウクライナ・ヘルソンの貧しい家に生まれたのですが、彼の才能に気づいた家族は、自分達とは違う人生を切り開いて欲しいと願い、家族一丸となって彼の才能に賭けた。父と祖母は、彼を名門キエフバレエ学校に通わせる費用を捻出する為、外国に出稼ぎに。セルゲイ少年は母と2人で田舎を出た。

バレエ学校で彼の才能は飛び抜けていた。それを見た母は、次の決断をするのですが、これがすごい。息子の才能に相応しい場所として選んだのは英国ロイヤルバレエ。試験の為に2人で渡英し見事合格。しかし母は英国に残れない。ビザが無いのだ。不法滞在も考えたが、それが息子の足を引っ張るのでは本末転倒。泣く泣く1人帰国した。これは相当な覚悟が無いと出来ない決断だと思う。

卒業後の彼の活躍は言うまでも無く、ここで後々彼を助けてくれる、沢山の友人も得るわけですが…

家族と再び一緒に、幸せに暮らす為に、言葉も分からない英国で、自分の才能だけを武器に戦う。これって健気で可愛いとか、そんな次元の話じゃない。自分に全てを賭けた家族の為にも、逃げる事も失敗する事も許されなかった。必死に努力した結果、家族をバラバラにしたのもまた、その才能だったとしたら?最大の目的を失った彼は次第に追い詰められて行く…

タトゥー、夜遊び、ドラッグ…
メデイアは刺激的な部分だけを拾って、天才の破滅と煽って更に彼を追い詰めた。ロイヤルバレエを退団した時も、驕り高ぶった若者の身勝手な行動と非難した。そんな悪評から、彼を受け入れるバレエ団はなかった。

ロシアに渡ったセルゲイは、オーディションバラエティ番組で踊った。その場で審査員に採点されるのだ。英国ロイヤルバレエのプリンシパルが踊るような場所ではない。観ていて泣けてきた。しかし素晴らしい舞なのだ。
当然、目の肥えたロシア人達にも認められた。ロシアでセルゲイは最大の理解者に出会い、彼の舞台で踊る事になり、しばらくは充実した日々を送る。だけど大き過ぎる才能故、また行き詰まる。

普通の生活が欲しい…と引退を決意した彼はロイヤルバレエ時代の親友に振付を依頼する。それがこの動画。

歌詞の日本語訳と共にこの動画が流れた時、自分の前後左右の席から、すすり泣きが聞こえた。私も泣いていた。天才の苦悩なんて分かるはずも無いのに。分かるとか分からないとか、そんなことを超えた何かを彼は伝えていた。光の差す教会で踊る姿は、まるで祈っている様だ。

引退を決意して撮ったこの動画は、大きな反響を呼び、結果彼に再び踊る道を示した。

飛んでいる時だけ、本当の自分になれる。

セルゲイはそう言った。踊る事が楽しくて、家族が喜んでくれるのが嬉しくて仕方なかった頃から、変わっていないのだ。

舞踏の神様に愛された彼が、どうかこの先も長く、踊る事が好きだと思っていられますように。それが1分1秒でも長く続きます様に、そう願う。
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