1.サッカー日本代表におけるリカバリー(月刊スポーツメディスン No. 248 特集/試合間のリカバリー)


菊島良介
サッカー日本代表アスレティックトレーナー

松本良一
サッカー日本代表フィジカルコーチ

月刊スポーツメディスン 特集記事 目次ページ
https://note.com/asano_masashi/n/n940c46650669

分業体制

──お2人の普段の業務内容について教えてください。

菊島:私はアスレティックトレーナーという立場ですので、基本的にメディカル領域で活動しています。ケガのところや、コンディショニング全般のところも関わります。

松本:私のほうは、コーチングスタッフの一員なので、主に監督が要望するトレーニングや試合に関係すること、選手のコンディションチェック、選手が所属するクラブとのやりとりをします。また選手が移動してくるときは距離や環境がそれぞれ異なるので、疲労などに合わせてトレーニングボリュームを考えたり、スケジューリングを管理しています。

ワールドカップでの課題

──国際大会中のリカバリー、コンディショニングについてお聞きしていきます。今回のサッカーのワールドカップでは、前もってどういった課題を把握していましたか。

菊島:大まかなところは、コーチングスタッフの松本さんが、練習量のコントロールをされていたので、その点も踏まえて松本さんに話していただいて、そのあとメディカルのところで準備したことをお話できればと思います。

松本:はい。では、図1にお示しするのが、走行距離のデータになります。総走行距離に対する、ディフェンス時およびオフェンス時(それぞれ、相手がボールを保持している状況と、自チームがボールを保持している状況)の割合になります。左の上から、オーストラリア、ベトナム、パラグアイ、それからブラジル、ガーナ、チュニジア、そしてアメリカ、エクアドル、カナダです。3つずつ分けました。一番上がアジア最終予選です。2番目が国際Aマッチのキリンチャレンジカップです。これらの違いについて、まずディフェンスの走行距離をみますと7855、その下になりますと、ワールドカップに出るチームなので、ディフェンスの走行距離が長くなります。アメリカ以下のところではどのチームも本気を出してきまして、走行距離が伸びます。ここで、「あれ?」と思いました。ランニングの内容の変化について、このあたりから1万mを超えてきました。おかしいな、ということで、いろいろなデータを参照して、ディフェンスの時間が増えること、さらにオフェンスの選手によるディフェンスの時間が増え、オフェンスの選手の負荷がかかるということがわかりました。

 ここから、今までのリカバリーとは考え方を変えなければならないというところから、出場時間ではなく、試合の中でどのような速度でどのくらい走ったかということから我々は判断し、通常であれば試合翌日もトレーニングを行うところを、リカバリートレーニングに参加するようにさせ、あとは菊島さんやメディカルスタッフによるケアを受け、次の試合に向けて準備していったという過程がありました。

 攻撃の走行距離は少なくなり、6000mほどの差が出てきました。これを見ると、通常ですと、試合翌日でもトレーニングをしたいとは思うのですが、トレーニング内容し、強度を低くしながらうまく戦術を落とし込めるようなトレーニングに変化させていったのが、今回のワールドカップの大きなポイントだったと思います。

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