1.貧血をどのように見つけ、治療するか ──内科医の視点から(月刊スポーツメディスン No. 246 特集/スポーツ選手の貧血)


蒲原一之
ハイパフォーマンススポーツセンター 国立スポーツ科学センター、内科医

月刊スポーツメディスン 特集記事 目次ページ
https://note.com/asano_masashi/n/n940c46650669


貧血がみつかるきっかけ

──今日はアスリートの貧血についてお聞きします。患者さんとしてアスリートが受診し、症状の訴えなどがあると思いますが、貧血の場合の典型的な訴えを教えてください。

蒲原:貧血の際の一般的な訴えは、疲れやすい、息切れがする、動悸がする、立ちくらみがする、などです。

 アスリートの場合ですと、そういう症状が出ることももちろんですが、それに加えて「最近、練習がつらいです」「練習についていけないんです」また、長距離走をしているようなアスリートですと「走り始めてすぐに息が上がってしまうんです」という訴えがあることがあります。「最近なんとなく調子が悪いんです」というような漠然としたことを訴えるアスリートもいます。その原因を調べてみたら実は貧血だったということもよくあります。

──自覚がない状態で、血液検査の数値から貧血だとわかるというようなことがありますか?

蒲原:あります。ここで出会うようなアスリートは、メディカルチェックといって年に1回以上、健康診断のようなものを受けています。そこで血液検査も実施しており、選手本人に自覚症状がなくても貧血が発見されることもしばしばあります。

貧血とは

──血液中における鉄の不足を、貧血と呼ぶという理解でよろしいですか?

蒲原:鉄が不足して貧血になるものを鉄欠乏性貧血といいますが、それ以外にも鉄は足りているけれど貧血になるということがあり得ます。頻度としては少ないですが、鉄が不足することだけが原因とは限りません。

──血液検査で詳しく調べ、その結果から状況に応じた治療が行われるということでしょうか。

蒲原:そうですね、ヘモグロビンが低下した状態を貧血と言いますが、そのヘモグロビンの構成要素が鉄とタンパク質ですので、その構成成分の鉄が不足するとヘモグロビンがあまりできなくなり、貧血になります。

 ヘモグロビンは、鉄とタンパク質で構成されていますので、タンパク質が慢性的に不足した状態でトレーニングを続けていると、鉄は足りていても貧血になることがあります。

──そうすると、極端な食事が続いたり、タンパク質の破壊に補給が追いつかないことも原因として考えられますか。

蒲原:そうですね。あまり言われていませんが、実はタンパク質が不足しているために貧血になっているのではないか、というアスリートはトップアスリートの中にかなり存在すると思います。やはり筋肉をつくるためにウェイトトレーニングなどを行っており、筋細胞が一度破壊されてまた合成されるということを繰り返していますが、そのタンパク質の合成の際に血液中のタンパク質がたくさん使われてしまい、ヘモグロビンをつくるほうに用いられるタンパク質が相対的に少なくなってしまうのではないかと推察しています。

──基本的な治療法については鉄剤の投与ということになりますか?

蒲原:鉄が不足して貧血になることがもっとも多いですから、基本的には治療するとなるとほとんどの場合は鉄剤投与になります。

 鉄は足りているけれどタンパク質が不足していそうな人には食事でしっかりタンパク質を摂ってくださいね、という栄養指導だけになります。

──治るまでにどのくらいの期間がかかるか、よく聞かれると思います。いかがでしょうか。

蒲原:鉄欠乏性貧血の場合ですと、鉄剤を投与し始めて1カ月後にはヘモグロビンはほぼ正常になっている人が多いです。ただその状態で治ったと思って鉄剤をやめてトレーニングをしていると、すぐにまた鉄欠乏の状態になってしまうということが往々にしてあります。したがって、通常は3カ月くらい続けて鉄剤を毎日飲んでもらうという治療をします。

──効果が出てきたところで鉄剤を飲むのをやめてはいけないのですね。

蒲原:はい。鉄は身体に貯蔵されていますが、貧血になるということは多くの場合、その貯蔵されている鉄も不足しています。そこで鉄を十分身体に貯蔵させておいて、鉄剤をやめるということができればまたすぐに貧血になることは予防できます。

 しかし、身体に蓄えられている鉄が不足している状態で、血液中の鉄だけ増えた時点で鉄剤をやめてしまうと、おそらくまた貧血になります。

──そうすると鉄剤の服用をやめてまた血液中の鉄が不足すると症状の再発もあり得ますか?

蒲原:そうですね。それまでの原因のところで、なぜ貧血になったのか、なぜ鉄が不足して貧血になったのか。食事からの鉄の摂取が不十分だったり、何か原因があるはずなので、その原因を突き止めて改善しないと、また貧血になることは往々にしてあります。

──食事から不足する分を全て補えることが理想でしょうか。

蒲原:そうですね。

鉄剤が合わない場合の対応

──鉄剤は人によっては体質的に合わない、便秘になるという話もあるようですが、そういうこともありますか?

蒲原:あります。便秘になったり、鉄剤を飲むと気持ちが悪くなるので続けられないという人も結構います。

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