肩肘を張る 辻田浩志(月刊トレーニング・ジャーナル2010年8月号、連載 身体言葉(からだことば)に学ぶ知恵 第9回)
辻田浩志
腰痛館代表
連載目次
https://note.com/asano_masashi/n/n9fbc8ed2885a
仕事で人の身体を触っていると妙なことに気づくこともあります。たとえば上半身を中心としてうっすらと全体に膜を張ったような身体に出会うことがあって、特定のどの筋肉というわけじゃなく上半身全体の筋肉が微妙に緊張しているのです。しかも運動や仕事などで疲れて筋拘縮を起こしているのとは違い、わずかな緊張が長時間続いているのかな?なんて想像します。ひょっとして何らかの精神的なストレスが原因なのかなとも思うのです。こういう場合、具体的には胸郭から肩甲帯や上腕部、そして首にかけて一体感のある緊張が認められます。そういった身体を触ったとき、その人の中に肩肘を張ったような気負いみたいなのを感じてしまうのです。
「肩肘を張る」という言葉は姿勢そのものというより、むしろ精神的な状態を示す言葉として用いられます。「肩を張る」という表現は肩甲骨の位置を高くあげた状態と申し上げた方がわかりやすいかもしれません。また「肘を張る」というのも肘を高くあげてやや外側に広げた状態と説明するとわかりやすいです。もっともその高さや角度はたいした問題ではなく、なぜそのような姿勢をするのかに重要性があります。この状態で思い出すのはボクシングなどの打撃系スポーツで見られる「ガード」です。相手の攻撃から身を守るために肘の位置を上げ、顔面や体幹に対する衝撃をなくすのが目的です。
「肩肘を張る」という言葉を辞書で調べてみると「《無理に肩ひじを高くして身構えるところから》気負う。いばる」とありました。やはり身構えることが言葉の前提となっているようです。説明するほどのことでもありませんが、身体を守るときやはり顔面・頭蓋や体幹は優先順位が最も高いのは当たり前。当然、命に関わることもあるのですから…。ガード役にまわる腕も大切な部位ではあるのですが、それも命があっての話。ここは泣く泣く衝撃を受けてもらわざるを得ません。それでも衝撃をうまく殺す技術があれば、腕にも大きな力が加わることもありません。ここでいう「肩肘を張る」という言葉は実際にボクシングのガードを構えているわけではありません。むしろ気持ちの面だけで戦闘態勢に入っているというのがこの言葉を説明するのに適しているかもしれません。
ここから先は
¥ 300
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?