1.「特異性」を整理して伝える ──トレーニング指導を行う際のポイント(月刊トレーニング・ジャーナル2021年2月号 特集/「特異性」について考える)


佐々部孝紀・帝京平成大学、山梨学院大学男子バスケットボール部、富士通アメリカンフットボール部、CSCS、JSPO-AT

トレーニングを行う際に、内容をどのように決めるかについて迷う場合があるかもしれない。佐々部氏の指導内容や測定種目の絞り込みは参考になると思われる。

「特異性」の言葉の使われ方

 特異性という言葉は、会話の中でどの部分を指して使われているかというのは背景や文脈によって異なってくるように感じています。

 たとえば、サッカーと野球を比べてみた場合を考えると、「競技スキルの特異性」といった部分が異なります。ここに着目すると、サッカーに必要なトレーニングはこういうもので、野球に必要なトレーニングはこうである、といった具合に、競技ごとで大きく違う発想のトレーニングが生まれてきます(図1上)。

 一方で、私たちトレーニング指導者が「特異性」という言葉を使う場合、「体力要素の特異性」に焦点を当てており、たとえばパワーと持久力、というように競技の動きというよりは競技に必要な体力要素に焦点を当てています(図1中)。場合によってはAさん、Bさんそれぞれの対象者に合ったトレーニング処方を、という意味で特異性という言葉を使う場合もあるかと思いますが、これは厳密に言えば「個別性」であると考えられます(図1下)。


図1

 競技スキルの特異性の部分に目を向けると、ゴルフのスイングに抵抗をかけるとか、『巨人の星』で出てきたように全身にギプスを装着するといった考えが出てくるかもしれません。一方で、私たちトレーニング指導者が普段、さまざまな種目のアスリートに対してトレーニングを考える際には、競技に必要な「体力要素の特異性」を考えています。サッカーに必要なトレーニングをする、野球にはこのようなトレーニングが必要というのではなく、たとえば「サッカーにはパワーや持久力の体力要素が必要なので、プライオメトリクスや筋力トレーニングを行ってパワーを高め、持久的なトレーニングを行って持久力を高める」といったような形で、競技特性と具体的なトレーニングの間に体力要素という概念を挟むことで目的を明確化しています(図2)。この体力要素というワンクッションを挟まない場合に、競技で起こる場面や姿勢に対して負荷をかけるという発想になってしまうのではないかと考えています。


図2

 しかし、私たちはトレーニング指導者を名乗っている以上、体力向上の専門家です。競技の動作を模してトレーニングを行うのは、どちらかというと技術を教えることに含まれると思うのです。「体力面を向上させても競技につながらなければ意味はない」という議論はよくわかります。しかし、それを体力を向上に目を向けない理由に用いるのはナンセンスです。「競技につながらなければ意味はない」、という部分には同意しますが、それは体力が向上していることが前提であり、まずは体力測定で明らかとなる数値を向上させなければならないと私は考えています。

技術練習でも高められる体力要素

 基本的に成長期を過ぎると、筋力やパワーは競技練習の中では向上させづらくなってきます。一方で持久力は競技練習のなかで鍛えることもできます。たとえばサッカーの研究などでSSG(small sided games)として言及されることも多い、3対3や4対4などのミニゲームでは全員がボールに関わって動き続けるので持久力が鍛えられます。SSGとHIITで効果を比較した研究でも、VO2maxはSSGでも上がると言われています。競技練習の中で刺激が足りているのであれば持久的なものをプラスでやる必要はない、これもいわば特異性の1つです。

 たとえば「一番競技に特異的なものは競技練習だ」という話はよく耳にします。その背景にあるのはスキル的なものだと考えられます。一方で、体力要素の中の持久的なところに目を向けても、意外に競技練習的なものが特異的であったりすることもありますが、筋力やパワーの向上はあまり期待できません。

 実際、NCAAのデータでも、スターティングメンバーの選手と、非スターティングメンバーの選手を比較するとスターティングメンバーの選手のほうがシーズンを通して筋力が下がってしまったというデータも出ています。持久的要素による筋力阻害効果というのは知られてきているように、ボール型の球技では持久的な刺激が入りますので、競技を行っていると筋力やパワーが落ちてきてしまうというのは、ある意味特異的効果もあるのではないかと考えられます。

共通の測定項目

 各競技において、スプリントスピード、ジャンプ力、持久力など、体力測定で必要となる項目は7割方は共通しているように思います。そこから考えると、実施するトレーニングも、競技が異なっていても7割方は共通したものになるのではないでしょうか。一方で、どの体力要素が特に重要かといった優先順位が競技ごとに変わってくると考えられるので、それに合わせてトレーニングの内容も変化をつける、というのが私の考えです。

 たとえば、球技の分類として主にゴール型、ネット型、ベースボール型に分けられます(ほかにターゲット型として、ゴルフなどもありますが、ここでは省略します)。これら3つの球技にそれぞれ当てはまる競技として、ボール型にはバスケットボールやラグビーなどがあります。ベースボール型には野球やソフトボールがあります。ネット型は、バレーボールやテニスなどが含まれます。ベースボール型にはパワーが必要で、ネット型にはパワー(スピード)、持久力が必要になってきます。ゴール型には、パワー(スピード)、持久力に加えて、選手が入り乱れてプレーをしますのでコンタクトの要素も必要になってきます(図3)。

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