3.パーソナルトレーニングを指導する際に考えること(月刊トレーニング・ジャーナル2021年2月号 特集/「特異性」について考える)


藤田 晋・パーソナルトレーナー、株式会社EFFORT代表取締役

女性を中心に多くのクライアントのパーソナルトレーニングを指導している藤田氏。世界中の人々を心身共に健康にするという理念を掲げ、英語教師と商社就職という異色の経歴を持つパーソナルトレーナーとして活躍している。クライアントを指導する際に考えることについてお話を伺った。

特異性を考える

 現在は会社の代表取締役と、個人でパーソナルトレーナーとしてクライアントを担当しています。以前はアスリートを担当することもありましたが、現在は一般の方のダイエットやベストボディ出場を目指す方のサポートをすることが多くなっています。年齢も幅広く、10代から50代の方まで担当しており、現在はとくに女性クライアントが増えています。

 スポーツではゴルフをされている方や高校の運動部に所属する学生を担当してきました。年代や種目別の特異性であったり、ダイエットを目的とした方であれば生活習慣や体質も考慮した特異性を考え、トレーニングプログラムを立てて実行しなければなりません。

 私の中では健康が1つのテーマで、世界中の人々を心身共に健康にするということをミッションと考えて活動しています。ベストボディに出場される方は意識や取り組みなども含めてアスリートだと考えていますが、それ以外の方は健康的で美しくということを目的にトレーニングされているので、目的や方向性も特異性として考える要素の1つだと考えます。

 トレーニングプログラムについては私の中でベースとなるものがありますが、人や状況によっては大きく変えることもあります。パーソナルトレーニングのよさというのはクライアントのその日の体調やモチベーションも加味できるところだと考えていて、そこはトレーナーの技術が求められる部分だと思います。たとえば今日仕事でうまくいかなかったとか、プライベートで嫌なことがあったといったことがクライアントから出てきたりするとその日の心理面に合わせてトレーニングの内容を変えることもあります。あとはその日のコンディションで、痛みだけでなく肩や腰の凝りがあったりすると内容をストレッチ中心にするなど、そのときの状態に応じて臨機応変に対応しています。

トレーニング種目

 トレーニングを行う際、基本的には上半身と下半身を交互に行うようにプログラムを組んでいて、その日のクライアントの動きや様子を見て種目の変化をつけたりしています。核となる部分としてはセッションの初めに体幹トレーニングや動的なストレッチを行ったり、アクティベーションのためのメニューを取り入れてからストレングスに入ったりしています。とくにオフィスでデスクワークをされた後に来られる方が多いので、肩甲骨周囲をほぐしてからトレーニングに入るというように、その方の仕事や生活スタイルに合わせて変えるようにしています。

 トレーニングメニューとしてはオーソドックスな内容で、スクワットやベンチプレス、ラットプルダウンなど大筋群を中心に行っていて、その後に細かい筋群にアプローチをするといったところで特別変わったことをするわけではなくベーシックな内容だと思います。反対に私があまりしていないのは腕や肩の種目です。とくに女性のクライアントを担当することが多いので、女性にはたまに行う程度でほとんどしません。基本的には脚、背中、胸の種目といった内容で行っています。若い男性で腕を太くしたいという方には行いますが、それほど頻繁に取り入れてはいません。

 セッションの終盤には達成感を得てもらえるような、心拍数が上がるような負荷をかけた種目を行うようにはしています。腹筋種目を行うことも多いですが、毎回というわけではありません。ジムにはステーショナリーバイクもあるので使うこともありますし、TABATAプロトコルなどHIITを行うこともあります。クライアントによってはジャンプなどいろいろな動きを入れながら心拍数を上げることもあって、終わってからやりきったという気分で帰っていただけることは心がけるなど、いろいろなところからよいところを選択してメニューを組むようにしています。

メニューを変える根拠

 トレーニングを開始する前には、まず最初にカウンセリングをして目標を確認したり現在の生活習慣を伺いながらメニューを組み立てていくのですが、基本的には本人の目標に合わせてプログラムデザインを変えていきます。先述のようにその日の出来事で気分やモチベーションが変わってしまうことがあるので、たとえば普段は60kgでスクワットをしていても、ネガティブな出来事によってその日はトレーニングに身が入らなかったり、いつもより重く感じたり挙げられなかったりします。そういったときはメニューを大きく変えて、楽しみながらできるようなトレーニングを行ったりします。たとえばBOSUやストレッチポールの上でバランスを取りながらスクワットをするなど、チャレンジするような種目を行うというようにトレーニングのシチュエーションを変えることで負荷の種類を変化させて、普段と違う刺激を入れるようにしています。こうしたその日のモチベーションや状態の変化というのは、ジムに来られたときやトレーニングルームに入って来られた際の最初の挨拶で感じとれるように心がけていて、声のトーンや表情の暗さ、疲れている様子や雰囲気のときには声をかけるようにしています。

マニュアルによる指導

 大きな会社や組織ではスタッフが多かったりするので、トレーナーの指導を均一化させるためにもマニュアルに沿った指導という方法が効率的ではあります。マニュアルがあることによって組織内で統率がとれるということと、同じサービスをクライアントに提供できるというところがメリットだと思います。反対にマニュアルの範囲を超えた方に対しては身体を変えることができなかったりするので、そこはデメリットかなと思います。そうしたところではある程度の自由度も与えられますがあまりかけ離れたことをするわけにもいかないですし、マニュアル以外のことを頻繁にすることでスタッフ間の信頼関係にも関わります。あとは会社のブランドや謳っているメソッドがあると、そこから逸脱することはできないというのが難しいところです。

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