3.体幹のトレーニング・測定機器の開発──RECOREができあがるまでと今後の方向性(月刊スポーツメディスン No. 244 特集/測定と評価の意味)
塚原義人
日本シグマックス株式会社開発2課マネジャー
木川卓也
日本シグマックス株式会社開発2課リーダー
佐々木聰
日本シグマックス株式会社経営企画室 広報担当
峠 花観
日本シグマックス株式会社経営企画室 広報担当
RECORE開発のきっかけ
塚原:2013年5月の日本整形外科学会学術総会の際、金沢大学の加藤先生に当社出展ブースへお越しいただいて、日本シグマックスに対してつくってみませんかとお話をいただいたのが最初のきっかけで、いろいろな会社のなかで一番いいところと、というコンペ的なスタートでした。社内でも今後のことも含めてやりたい案件だったので、社内で承認をもらって加藤先生へのプレゼンテーションを行い、最終的に当社で開発に当たることになりました。2014年頃だったと思います。まだ北陸新幹線「かがやき」が開通する前で、小松空港までの飛行機を使って金沢まで通っていた頃です。
先生のアイデアを形にするところから始まっていて、「原理試作」という言い方をしますが、既存の金魚の水槽用のポンプを使い、当社の「マックスベルト」という腰痛帯の商品があるのですが、それに空気袋をつけて膨らませてお腹に圧迫を加えたらどうなるか、というところが一番最初でした。膨らませ方が足りないとか、いろいろとああでもないこうでもないとやって…苦労したというほどではありませんが、「先生の考えはこういうことでしょうか」と答え合わせをしていく作業が多分一番、面白くもあり、悩んだことでもあります。
写真1 開発に当たった塚原氏(左)と木川氏
製品化まで
木川:塚原が原理試作を繰り返して先生とコンセプトを詰めた後、私の方で製品化まで持っていきました。製品化に当たって苦労した点については、かなり大きな圧力がかかるという点でした。腰に巻いているベルトが布製品で、圧力をかけるとどんどん伸びていってしまいました。伸縮性のある生地を使うと力が逃げてお腹に圧力もかからないし、測定値にも影響がでるため、いかに圧力を逃さないかというところはやはり大変でした。耐久性評価もなかなかできなくて、私自身、筋トレを重ね、壊れるまで確認しました。大きな圧力に対する布製品の耐久性というところは苦労しました。柔軟性を持たせつつ伸縮しないようにというのが難しいところでした。いろいろな素材を試していく中で、ダメなものは全然ダメで、測定値が全然違ってしまったりというところがあります。
塚原:私たちは医療業界で仕事をしており、安全性に関しては非常に慎重でシビアになります。そこはきちんと考えなければなりません。加藤先生が最初に考えておられたアイデアを具現化して実際にやってみて、たとえば具体的にいうと自動で空気が入り続けてしまうのはそのままではリスクがあるというところがあり、それをなくすにはと考えました。最終的に操作者がボタンを押していないと空気が入らない、という仕様になっていったのは、やはり実際に動かしてみてこういうリスクがあり得る、と気づいたからでもあります。
木川:RECOREには結構大きな画面をつけていますが、その目的はお腹に力を入れて体幹の筋肉を働かせるということですが、やってみると非常に地味な運動です。いかにモチベーションを保つかということで、それを時間をかけて患者様にやってもらうために画面上にタイミングやグラフを出したり、数値を出したりするようにして、自分の動きとリンクして、それらを可視化することによってモチベーションを保つという工夫です。それは大事だったなと思います。
最終的に今販売されているあの形になるまでには結構なパターンがありました。販売中のものには外部のデザイナーに入ってもらいました。外注で絵を書いてもらって、それを形にしています。採用されなかったデザインもあります。加藤先生からもこれではダメだと言われたりしました。加藤先生はやはり普及をさせたいという思いがあり、そこで大事な要素として使いやすさやデザインも重要になってきます。
図1 起案時のイメージスケッチ
図2 原理試作
写真2 安全性と求められる機能を両立させる難しさについて語っていただいた
数値が見えることの意味
木川:使ってくださっている方は日頃、日常的な生活が不自由な方でリハビリテーションを受けている方になります。数値がなくても日常の動作ができるようになればそれに越したことはありませんが、日頃できないことがある、もどかしさのある中で数値が伸びていることが示されることによって日常の生活に戻っていくイメージがしやすくなるというのが一番大きなところだと思います。医療機関で受けられるリハビリテーションの期間は上限が決まっていますが、その中でいかに日常に近付けたかが数値として見えるということが、モチベーションにつながると考えています。
峠:私は去年まで営業だったので、実際に病医院で紹介していました。その視点から、この機械は数値化ができ、自分の体幹筋力がどのくらいあるかということと、トレーニングするときも目盛が出てくるので、それに沿ってトレーニングができるようになっています。この数値が今までの数値よりよくなっているといったことをちゃんと表してくれるので、患者さんのモチベーションにつながってよいと思っています。
塚原:開発していく中で気づいたことがあります。測定器として、測定値が絶対的な数値なのか、相対的な数値なのかというのは非常に難しいというのは改めて実感しました。体重計のkg(キログラム)のように、ごく一般的に知られた物理量であれば絶対的評価としてAさんが70kgでBさんが60kgと比較ができますが、このRECOREに関して、私が測ったときの30kPa(キロパスカル)と、別の方が測ったときの30kPaは意味合いが違うということになります。体格や腹囲径とかでやはり違います。個人間での比較がしづらいというのはつくってみてわかったことです。
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