1.測定をしながら投球動作を改善していく ──三次元動作解析、ハイスピードカメラ、ラプソードの活用 大川靖晃(月刊トレーニング・ジャーナル2023年9月号、特集/動作のフォームをどうとらえるか)


大川靖晃
帝京大学スポーツ医科学センターアスレティックトレーナー(AT)部門長、MPI Tokyo

投球動作の撮影からフィードバックまで、どのように行っているかについて、また投球動作を考える際のポイントについて大川氏にお聞きした。

特集目次
https://note.com/asano_masashi/n/nf984ec80c5e1

主に3つの測定

 当施設では、移動式のマウンドを整備したり、測定のための機材を揃えるなど、設備を整えてきています。たとえばマウンドについては、黒土を使っていたのですが、現在はクレータイプの土に入れ替えました(写真1)。投球動作によって土が掘られることがなくなりました。メンテナンスとして、週に1回はジョウロで散水する必要があります(写真2)。


写真1 移動することができるマウンド


写真2 マウンドのメンテナンス用の道具

 このようにして、昨年の途中から、測定したいものを測定できるようになってきました。そのタイミングで、一般の方にも測定ができるようにしました。それまでは帝京大学野球部のピッチャーが中心でした。日常的に野球部の選手をみながら、アップデートを重ねていきながら、一般の方へのフィードバックにも活用しているという形です。測定はハイスピードカメラ、三次元動作分析、ラプソードの3つが主になります。

 マウンドなどはどこまでこだわるかにもよりますが、一般的なシューズとスパイクでは異なりますし、せっかく三次元動作分析をするのですから、なるべく実際の投球の感覚に近づけたいと思いました。なお現時点ではマウンドへのフォースプレートの埋め込みはしていません。マウンドでの投球時には三次元動作解析ができますので、主にそちらを用いています。床反力を測定したい場合には、平らなところにフォースプレートが設置されていますので、そちらに移動して測定しています。

 ハイスピードカメラ(写真3)で撮影した動画は、すぐにスクリーンに映し出して確認することができます。横から撮影する場合には、1000FPS(毎秒1000コマ)ではブレが大きくなってしまい、指先とボールが接触している、見たいところを見ることができません。そのため、2000〜3000FPSに設定して撮影したいところです。しかし、このくらいで撮影すると暗くなってしまい、光量が必要になります。照明を当てることでギリギリ映ります。場合によっては真上からの撮影もしていますが、画角が狭く、調整が大変なのです。そのための撮影台も製品としてはありませんので、DIY(手づくり)で準備しました(写真4)。


写真3 ハイスピードカメラ


写真4 真上から撮影するために必要な機材

 野球のフォームの違いについて、動画サイト(YouTube)でハイスピードカメラの比較動画を公開したり、スティックピクチャー動画を資料として示すようなこともしています。

3次元動作分析

 動作分析では、ドイツのSimiという会社のソフトウェアを使用しています。投げる瞬間を録画し(写真5〜6)、児童で解析するソフトに放り込めば、5分ほどで取り込まれた各種のデータが表示されます。それまでは、自分で解析して30分間はかかっていましたが、最近、バージョンアップがあり、データを入力してから結果が出るまで劇的に早くなりました。


写真5 三次元動作解析のためのカメラ


写真6 全体を取り囲むようにカメラが設置される

 現在は、撮影するだけならスマートフォンでもできる時代です。そこからデータを抽出することも容易になっていて、今後は出てきたデータから何を見るのかが勝負になってくるのではないかと考えています。

 ここでみることができるのは、部位ごと、たとえば肘の速度、角度、加速度などが時系列で出てきます。

 大まかな測定の流れとしては、マウンドから何球か投げてもらい、その中でいくつかを3次元解析用に撮影をしておきます。そのデータをソフトウェアに入れて解析を進めておきます。解析が進んでいるときにハイスピードカメラで指先の撮影をして、さらにラプソードでもデータを取っているので、それも見ながらリリースの話を選手としていると、3次元のデータが仕上がっていますので、それらを合わせてフィードバックしています。

ハイスピードカメラ

 ラプソードはボールの情報(回転数や回転軸など)は把握できるのですが、それだけではなぜそのような回転になっているかがわかりません。そこを補うのがハイスピードカメラになってきます。回転が少ない投球だった場合、リリース時に指が伸びてしまって指がかからないことがわかったりします。あるいは、ストレートを投げているはずなのに、握りがフォークのようになっていることがあり、それではスピードは出ないだろうという投球になっていました。フォークを多く投げていたら、ストレートがそれに近づいてしまったようです。ストレートを投げているつもりが、指が開いてしまっていたことに気づかなかったということのようです。ハイスピードカメラで確認して、握りを直してもらったら、それだけでストレートの球速が伸びたということがありました。別の例では、最初は指と指の間は狭い握りをしていても、握りが狭くて不安があるのか、投球動作の中でだんだんと指と指の間が広がっていき、最終的なリリース時にフォークのような握りになってしまうのを見たことがありました。これは人間の目には見えないと思います。

 おそらく、球速が遅い、回転数が少ないということがラプソードでわかっても直しようがありません。ハイスピードカメラとセットで用いることで、ボールの情報とともに、指がどのようにかかっているかもわかります。さらにもう少し、三次元解析をプラスすると、リリース時に至るまでに何かがうまくいっていないことがわかるかもしれません。さらに補強されるイメージです。

何を見ているか

 三次元解析でチェックしているところは、米国などでもスタンダードな値があり、これを私も最初に見るようにしています。身体全体の重心の移動速度をまず見ます。この最初の並進運動の速度が3m/sほどあることを目安にしています。

 次に骨盤の回転する速度をみます。並進運動してきて、前足で止まったら、最初に回転するところが骨盤の部分になります。その次が胸郭の回転(両肩の回転)速度になります。次に肘の伸展速度、続いて肩の内旋速度です。

 これらの速度をみていますが、タイミングも大事な要素になります。グラフで見ると、最初に骨盤の山(最高速度)がきて、次に胸郭の山がきます。これが、投手によっては、胸郭の速度が先行するような動作になって、速度も大して上がらないということが起こります。

 理想は、骨盤から順に、胸郭、肘、というように末端へと速度の山が現れることで、さらに、それぞれの山が下がったときに次の山が上がっていることを確認します(写真7)。1つ手前にブレーキがかかるから先が走っていくということがあります。下がきちんと止まらないと先が走らない、というのがありますので、タイミングも見ています。ムチ動作のイメージです。

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