1.スポーツ医学(内科系)の役割(月刊スポーツメディスン No. 249 特集/スポーツ医学(内科系)が果たしていく役割)
坂本静男
駿河台大学スポーツ科学部特任教授、医師
予防への取り組み
私の考えとして、スポーツ医学内科系、スポーツや日常生活活動を病気などの予防や治療に使うことは、まだまだ未開発のところがほとんどです。まず先輩たちに教わることができる場所がほとんどありません。
ケガをする選手や中高年で運動によってケガをする方々が多くいることから、中規模以上の病院でも、一般の整形外科と別にスポーツ整形外科が設けられているところがあります。しかし、内科系ではこのようなことがほとんどありません。日々の臨床に追われて、結局は整形外科的な疾患の診断と手術を見て、なおかつ、研修の際に相談する先輩方がいませんから、収入のこととは別にしても、内科系スポーツ医学を強くやりたいと思う気持ちがないとなかなかできません。病院やクリニックで「ある科」をつくるには、やはりそれなりの収入がなければ長く続けることはできないのです。そういうことがあり、やはり内科系は予防が主になります。
アスリートは見た目は健康に見えても、実際には健康ではないこともあり、そこが内科系のスポーツドクターが生きてゆかれるところなのです。アスリートでも、一般市民でも、予防が重要で、運動習慣のない人に運動を勧める際にも、やりすぎや、効果のないやり方をしないように指導をしていかなくてはなりません。この点に関してスポーツ医学内科系の医師はこれからも考えていかなければなりません。内科系のスポーツドクターは、病気になるのを待っているのではなく、病気にならないよう、選手をみていかないといけませんし、一般市民に対しては病気にならないように運動を推奨したり、あるいは運動・栄養・休養の要素を高いレベルでバランスよくというのは常に言っています。それを指導できるような内科系スポーツドクターでないといけないと思います。
私は医師になりたいと思ったのが小学校低学年の頃で、病気を治すのではなく、病気になる前のことに取り組む医師がいてもよいのではないかと考え、予防医学を目指し、中でもとくに運動を取り入れる研究を、そして臨床を行ってきました。それゆえ、そのような気持ちの方に、スポーツ医学内科系を目指していただけると嬉しく思います。
ケガをする前にどう予防するとよいか、というのが整形外科ではなく整形「内科」であると提言したスポーツドクターがいました。さらに今、整形外科スポーツドクターからも予防について提言されてきています。
また厚生労働省でも2006年から生活習慣病の予防で第一に重要なことは運動であり、次いで喫煙や薬だと言及しています。医療費にお金をかけるよりは、病気にならないうちに、あるいは病気になっても早期のうちにみつけるように、という予防医学のほうにベクトルを変えてきてくれています。
今後はさらに予防が大事だということになってきます。スポーツ医学内科系はここが中心になっていかざるを得ないと思います。
幅広い領域
スポーツ医学の内科系と一口に言ってもその範囲は幅広く、循環器内科、呼吸器内科、神経内科、消化器内科、腎臓内科と重複するような部分もたくさんあります。得意不得意や専門分野はあると思いますが、内科系スポーツドクターを目指すとしても教科書的な書籍に掲載されている部分については知っておく必要があります。
たとえば運動時側腹部痛などは消化器内科が専門のように捉えられますが、スポーツ中によくある痛みなので、内科系スポーツドクターであっても、そのような知識が必要になります。
また、アスリートのぜんそく発作も、内科系スポーツドクターがよく理解しておくべきことです。これは本来は呼吸器内科が専門になるかもしれませんが、アンチドーピングのルールに抵触しやすい点があるので、薬物治療を行うにはTUE(Therapeutic Use Exemptions、治療使用特例)申請を行わなければなりません。専門がどの臓器であったとしても、スポーツドクターとしては、きちんと診断をして、この治療薬でないとコントロールできないという証明ができる必要があります。広く知識を持つとともに「ここだけは」という専門領域を持つのがよいと思います。
もちろん、すべてにおいて誰にも負けない専門家になる必要はありません。多くのことは浅く広くなりますが、ある臓器の疾患については専門の度合いが高い、となってほしいです。得手不得手はどんなことにもありますから、専門のドクターに相談すればよいのです。1つの専門家だけでできることではないですし、医師だけではなく、看護師や保健師さん、心理カウンセラー、栄養士、アスレティックトレーナー、医療事務の方々も集まって、自分の専門性を活かして、よい意味で他の人たちに頼っていくという構造が、スポーツ医学では必要になります。
トレーニングを過剰にしない
アスリートに対してトレーニングを過剰にさせないように口を挟むことが、内科系スポーツドクターにとって最も大事なことです。
どうしてもアスリートはたくさん練習すれば成績や記録につながると思い込みやすいです。各個人に合わせた、トレーニング量や強度をみつけてあげて、なおかつ、完全休養日を週に2日を取ってもらいたいところです。それが無理なら週に1日、完全休養日を設けてほしいです。それ以外に、週に2日は、本人が専門としている種目ではないことをやってほしいです。マラソン選手であればウォーキングを1時間やる、野球選手であればサッカーをやる、サッカー選手であればバレーボールをやる、などです。このとき、有酸素性運動のほかにトレーニング(筋トレ)をしてもよいでしょう。残りの4日間は、1回に2〜3時間、専門の種目を一生懸命行うようにすることです。
専門種目ばかりするから、内科的にも外科的にも同じ部位に負荷がかかりがちです。そうならないよう、専門の種目以外もできるように配慮することです。
昔は、野球選手は肩を冷やしてはいけないから水泳をしてはいけないと言われたり、運動中にスポーツ選手は水を飲んではいけないと言われていました。今や試合中でも水分摂取するようになってきました。暴力やハラスメント、試合に負けたら罰として長距離を走らせるというような、間違ったことは止めましょう。1人2人だけが苦しいのではなく、多くの人が苦しむことはおかしいと感じていたのですが、それに対して反論をすることはできない時代でした。誤っていることに対して、自由に言えるようなことが、スポーツの世界でも重要です。休みをとるようなことは、内科系スポーツドクターが声を大きくして発言し、なおかつ各個人に必要な量および強度で練習を行い、本人の力が、110%、120%出せるようなスポーツ界になってほしいものです。
内科系を学ぶ場
医師の方々が内科系スポーツ医学のことを学ぶ場である学会には、以下のようなものがあります。
医師が多く集まっているのは日本臨床スポーツ医学会です。この学会に入会している医師は整形外科領域の方が多いのですが、内科系の先生が1000人ほど入会しています。
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