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【短編小説】私の素敵なシングルライフ

 私は都内で優雅な独身生活を満喫している。仕事で毎日忙しく疲れてしまい、プライベートの時間は自分の思うままに過ごしたい。何かに気を遣ったり余計なことで悩んだりしたくないのだ。
 だから結婚は一度もしたことがないしこれからも結婚するつもりもない。
 休日は自宅で日々の疲れを癒すためにゆっくりすることにしている。
 朝シャワーを浴びた後、シャンパンを喉に流し込む。そしてバゲットやサラダをつまむ。そのままジャズやクラシックを聴きながらゆったりと午前中を過ごし、昼食はデリバリーのピザを注文している。値段は少々高いけれども家から出なくてもいいのだ。車のガソリン代だと思えば安いものである。夕食も通販で買っておいた冷凍の高級料理をレンジで温める。意外とクオリティも高い。
 これでセレブのような気分を十分に満喫できる。
 食事をしながら録画しておいたドラマや映画を心ゆくまで楽しむことにしている。
 映画以外で私は通販番組を見ることも好きで、いつまでも見てしまうことがある。
 ちなみに我が家の家電はすべて通販で買い揃えた。テレビ、掃除機、電子レンジ、炊飯器。何でもそろう。
 すべて電話するだけで数日中には自宅に届くので重宝している。こんな最高のシステムを考案した人に心の底から賛辞を送りたい。
 以前は、量販店に家電製品を買いに出かけていたのだが、広い店内をあちこちと探し、いくつもの商品を比較しなければならないので、時間がかかっていた。これを楽しいという家電好きの人がいるのかもしれないが、私にとっては時間のムダでしかない。
 しかし、通販番組ならば詳しく機能を教えてくれるし、量販店のように説明してくれた店員に買うのかどうかという駆け引きをしなくてもいい。
 それに通販番組では他社の商品のことは絶対に言わないから迷うこともない。量販店で買うと車からヨイショ、ヨイショと部屋まで運ばなければならない。その点で通販は家まで届けてくれる。おまけにテレビやパソコンの面倒な設定まで一括して済ませてくれるので至れり尽くせりなのである。
 もうテレビショッピングのない生活は考えられない。
 もともと通販やテレビショッピングはA社が市場を独占していたのだが、近年は他の会社も頭角を表し始めてきた。
 特に勢いのあるのがB社だ。B社はスピードをセールスポイントにしている。朝、電話でB社に注文をすると当日の夜には家まで商品が届くようになった。
 するとA社も同様のサービスを始めた。今度は、B社がサービス品をつけてくれるように。例えば電子レンジを買うと、高級フライパンがついてきたり、テレビを購入すればレコーダーをおまけにくれるのだ。
 今度はA社も負けていない。洗濯機を買ったら乾燥機までセットしてくれるようになった。
 こうなるとサービス合戦が止まらない。日を追うごとに激しさを増していった。
 ついにB社は依頼の商品を注文日の昼すぎに自宅へ届けるというサービスを打ち出した。ものは試しと私も休日の朝八時半ごろB社に電話を入れオーブンレンジを注文。すると午後一時に自宅に届いたのである。これにはさすがに驚いた。
 これに対抗し、A社はグレードの高い商品を低価格で販売するようになった。最新の8Kテレビを19,800円という値段で販売する。
 あまりの過激な販売競争を見ていて、これからどうなってしまうのだろうかと、私は心配していた。
 
 さてガラリと話は変わるが、私は動物が大好きで子どもの頃はよく動物園に行き、実家では犬も猫も飼っていた。
 しかし、現在、私の住むマンションでは残念ながらペットは飼えない。
 このシングルライフに満足しているのだが、やはり寂しく感じることも時にはある。
 そんな時、テレビショッピングでロボット犬・イヌロボを紹介していた。   
 このイヌロボは高性能ですぐに飼い主を覚え指示することも理解でき、その時の状況判断まで自分で適格にできるという優れものだった。
 値段は高かったけれどもすぐに購入した。撫でると喜ぶし、仕事から帰宅すると走って出迎えてくれる。
 予想以上に私を和ませてくれる優れものだった。
 ならばロボットの猫はないだろうかと探しているとテレビショッピングで販売をしていた。名前はニャンロボ。
 これも高価ではあったが早速購入した。このニャンロボも超高性能でよくなついてくれ鳴き声も可愛らしい。忙しく疲れた私を癒してくれた。
 この通販というシステムは私にとって最高のシステムなのだ。
 ある時、3日ほど大阪支店に出張をすることになった。
 イヌロボにもニャンロボにも数日会えなくなってしまうけれどもしかたがない。私は、泣く泣く出張に出かけた。
 そして無事に出張を終え、急いで帰宅すると玄関の前に立った時点で何やら部屋の中から焦げくさい臭いがした。
 慌てて中に入ると、イヌロボとニャンロボが家電製品に、それぞれ噛みついて壊している。あまりのことに驚いてしまったがすぐに理由がわかった。
 イヌロボはA社製で、ニャンロボはB社製。他社製品の家電を発見すると攻撃するという機能まで備わっていたようだ。
 少し煙の立ち込める部屋に私が入ると二匹いや二台の犬と猫がつぶらな瞳で私をじっと見ていた。                             
                               (了) 

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