【短編小説】ビートルズのように
名古屋の繁華街・栄。
ここには若者を中心に多くの人が毎日たくさん集まってきます。セントラルパークという街の中央にある公園では、若手バンドたちが日々、路上ライブをしています。
これは、セントラルパークでライブをしていたバンドのお話です。
三月一日、解散ライブ当日を迎えた。少し肌寒かったが青空が広がっていた。セントラルパーク噴水前、いつものように冗談を言いながらライブの準備をしていた。
俺達は大学の同級生で「シリウス」という四人組アマチュアバンドの活動をしていた。一年生の時から毎週栄や名駅を中心に路上ライブを続けてきた。徐々に人気も出て、ある日の路上ライブには五百人以上も観客が集まり警察が出動したこともある。
三年生の時、地元名古屋の芸能事務所から声がかかった。将来どうするか四人で何度も真剣に話し合いを繰り返した。
そして芸能事務所の誘いを断り、アマチュアを貫く道を選んだ。卒業後は全員就職しバンドは解散する。四人で出した結論だった。大学の友人たちは続ければいいのにというけれど、現実はそんなに甘くない。
俺たちはけじめとして、栄のセントラルパーク噴水前で解散ライブをすることにした。
磯田のギターがうなりをあげる。キーボードの村野はいつもの笑顔だった。ドラムの佐古は何があってもマイペース。だから俺は歌うことに専念できた。俺たち四人は居酒屋でバカ話をしたり、音楽について朝まで議論したこともあった。時には殴り合いのケンカもした。それでも、四人でやってきた。
解散ライブは汗まみれになりながら無事大成功で終えることができた。その瞬間、四人とも無言で目には光るものがあった。
片付けが終わり松坂屋近くの牛丼屋へ。四人で最後の食事をしていたときだった。
「最後に記念の写真を撮ろうよ」
突然、村野が言い出した。よく通っていた松坂屋前の横断歩道を、ビートルズのアルバムジャケットのように四人が等間隔で歩き撮影した。深夜に何度も何度も撮り直した。俺達らしい記念写真だった。
現在、その横断歩道を写真とは反対の方向へ渡り俺は毎日会社へ向かっている。