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【短編小説】星に願いを

 みなさんの家から星はよく見えますか。
 夜空を見上げるとお月様をはじめ数え切れない数の星たちがキラキラと輝いています。
 あの星からの光は何年も何十年も、いや何百年も前にその星から放たれたものなのです。そしていま見ている星は、もうなくなってしまっているのかもしれません。そんなことを考えていると楽しくなったり、ちょっぴり悲しくなったりします。だから毎日星を見ていても飽きてしまうことはありません。
 
 私はもともと子供のころから星を見ることが好きでした。特に大好きなのは月。なぜだと思いますか。それは私の名前が「望月」だから。「望月」には満月という意味があるといいます。これは両親に感謝するしかありません。だから「親ガチャ」とかいうことをいう人がいるようですが、私には信じられません。
 
 私の両親は田舎暮らしが好きなこともあり、町から遠く離れた山の奥に住んでいます。父と母は長い間、不妊で悩んでいたようですが、高齢になってやっと妊娠し私が産まれたらしいです。それも私がお母さんのお腹の中にいたとき、お父さんが竹を取りに山の中へ入るとお母さんが急に産気づいて私が生まれたみたいです。どこの病院で産まれたのかはよく聞いていませんが。でも本当に不思議ですよね。市内にある竹田産婦人科かもしれませんね。私が産まれた時、両親は大変に喜んでくれたそうです。
 
 お父さんは私が産まれた後、なぜか宝くじが何度も当たり、お金には全くといっていいほど困っていませんでした。だから、仕事にも行かず毎日のように山の中にいって草刈りをしたり竹を取っています。お父さんはアウトドアが昔から大好きみたいです。元祖ソロキャンパーってところですね。お母さんもレトロというのか環境問題の意識高い系というのか、毎日のように近くの川まで歩いていって洗濯をしています。それも手でゴシゴシと洗うのです。イマドキ古風な人ですよね。お母さんは自分のことを「SDGSの鏡」といっていますが、結局は川の水を汚しているのだから同じことだと私は思っています。これは、お母さんには内緒ですよ。でも環境問題はみんなで真剣に考えなければ地球が大変なことになってしまいます。私もゴミの分別とかリサイクルとかできることから始めています。皆さんは「宇宙ごみ」って聞いたことありますか。地球の周回軌道上に運用が終わった人工衛星や故障した人工衛星などかなり多く存在して将来の宇宙活動の妨げになると言われています。宇宙までゴミを持ち出す人間も酷いですよね。
 
 さて、話は戻ります。私は生まれてから両親に大切に育ててもらいました。だから、子供のころからお父さんに欲しい物をお願いすると、ほとんど何でも買ってくれましたし、大学も東京の有名私立大学に行かせてくれました。大学時代は渋谷や原宿に出かけて友達とよく遊んでいました。そんなとき、友だちの推薦でいくつかのミスコンテストに出場して、何回も優勝しました。これは、ちょっと自慢になってしまうのかな。ハハハ。そういえば、何かのコンテストで優勝したときに記念だからって十二単を着せてもらったこともあります。重くて重くてもう大変でした。二回目はもういいかな。怒られちゃいますね。
 
 そんなこともあり、大学を卒業すると、いくつもお見合いのお話しをいただきました。お相手は有名政治家のお孫さんや財閥の御曹司ばかり。相手の立場もあるのでしかたなく何人かとお会いしましたが、ピンとくるような人はいませんでした。一番驚いたのは宮内庁から「とても重要な方」とのお見合いの話まであったこと。さすがに困ってしまいました。どうしても断りきれないので、とんでもない無理な条件をいくつも出してやんわりとお断りしました。 
 
 どうして、そんないいお話を断るのかといいますと、私には子供の頃からの大きな夢があるのです。それは、宇宙飛行士になることです。宇宙飛行士になり念願の月に行きたいのです。大好きな月にどうしても行ってみたいのです。あのアポロ計画のように。だから今でも就職しないで宇宙飛行士を目指し勉強しているのです。何度も何度も受験をしているのですが、どういうわけか最終選考で落とされてしまいます。それが悔しくて。やっぱり女性だからダメなのでしょうか。日本人だから無理なのでしょうか。それでも日本人女性の宇宙飛行士は今までに何人もいます。だから、あきらめません。負けるな私。がんばれ自分。
 
 先日も宇宙飛行士の最終選考がありました。かなり自信があったのですが、いまだに連絡がありません。連絡がくるまで毎晩のように夜空の月や星を見上げながら合格をお願いしていました。
「もう宇宙飛行士は無理なのかな」
かなりポジティブな私も今回ばかりはさすがに落ち込んでしまいました。悲しくて夜空を見上げ涙を流していました。
 すると、その時、私の部屋のドアが開いたのです。
「元気出しなさいよ」
お母さんが私の大好きな月見バーガーを持ってきてくれました。
「ありがとう、お母さん。元気が出るわ」
嬉しくて月見バーガーをパクついて食べていました。
「あなたが納得するまで、挑戦すればいいわよ」
お母さんはやさしく微笑んで見守ってくれます。
「あ、それと何か郵便が届いていたわよ」
お母さんは大きくて分厚い封筒を持っていました。それは宇宙航空研究開発機構からの郵便でした。封筒には「望月かぐや様 重要なお知らせ」と赤い字で大きく書かれてあります。さっそくリビングに移動してその封筒を家族三人で開けてみることにしました。ちょうどその時、リビングのテレビでは二十五年前に起きた山中で発生した幼女行方不明事件についての記者会見を放送していました。
「姫ちゃん。帰ってきて」
 悲しそうに泣き叫ぶ大月さんというご夫婦がテレビに写っていました。
                              (了)                                 

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