【短編小説】お茶しませんか?
「今度の日曜日、お茶しませんか」
そんなメールをもらった。送信してきたのは大学で知り合った同じクラスの女の子。名前を麗子という。大人しく控えめな感じの人だ。
僕は元気で活発な女子よりもおしとやかな女性が好きだったので、彼女に好感を持っていた。ときどき教室で会えば少し話しをする友達だった。
天気のいい日曜の朝。彼女が見つけたオシャレな喫茶店で珈琲でも飲むのだろう、と僕は勝手な想像をしていた。
大曽根駅で待ち合わせをして、彼女の案内で目的の店に向かってゆっくり歩き始めた。
「どこの喫茶店にいくの?」
「いいから、いいから」
彼女は嬉しそうにニヤリと笑いつつ、進んでいく。
そして到着したのは徳川園。騒がしい街の中にひっそりと静かで落ち着きのある空間が現れた。初めて訪れたのだが、なんともいえない厳かな雰囲気に僕は圧倒されてしまった。あちこちを見まわしていると、彼女はそのまま徳川園の中にある茶室へと入っていった。
「ね、お茶でしょ」
うれしそうに彼女は微笑んだ。
二人並んで茶室に座ったけれど、僕はお茶会の席には慣れていない。
どうしたらいいのかドギマギしていると彼女が丁寧に一つ一つ教えてくれた。その時の彼女の所作も美しかった。僕はそれを見ていてすぐに彼女の虜になってしまった。
それから十五年。
彼女は僕の妻となり、子どもが三人生まれた。結婚当初はときどき徳川園の茶室にも行ったが、徐々に忙しくなると行くこともなくなった。
「パパ、早くして。お茶に行くよ」
妻に急かされ家族で車に乗り込む。
毎週日曜の朝、わが家はコメダ珈琲でモーニングを食べることが近頃の定番になっている。