アスターナ古墳群、初めて見たヒトのミイラ 1987.8
1987年の中国旅行は、自分にとって「生まれて初めての体験」ばかりだった。
初めての海外旅行、初めての飛行機、初めてのヒッチハイク……。
トルファンでは、生まれて初めてヒトのミイラを目の前で見た。場所は近郊にあるアスターナ古墳群。
半日ツアーの軽トラックはベゼクリク千仏洞を後にして、再び険しい火焰山の山裾をスピードを上げて走った。十数分で到着した。
アスターナ古墳群は高昌国の王族の墓地群。いくつかの墓地が公開されていたが、今、記憶にあるのは夫婦のミイラが残る210号のみ。
緩やかな階段を下り、地下の部屋に足を踏み入れると、空間の中央に石造りのベッドが2つ、ほのかに見えた。
ベッドの上には「物体」があった。足元に気をつけながらベッドに近づくと、ガイドが懐中電灯で「物体」を照らした照らした。そこにはミイラが横たわっていた。顔は土色。水分がすっかり抜けて目と頬がこけている。古い布と藁で作った人形のようだ。遺体はガラスのカバーに収められておらず、むき出しのままだった。
顔をじっと見つめると、ほんのわずかに命の灯火が残っているようにも見える。生と死の中間にいるようだった。
副葬品は、ほぼすべてウルムチの博物館に収められているとのこと。
たった2人で残されたミイラは、すべてを失った亡命貴族のようだった。
※写真はベゼクリク千仏洞からアスターナ古墳群に向かう途中、軽トラックの荷台で撮影