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モスクというものを初めて見た 1987.8
蘭州・白塔山公園のてっぺんから豊かに水をたたえた黄河を見下ろすと、川の手前、右手にねぎぼうずの形をした緑色の屋根が見えた。
モスクだ。イスラム教の宗教施設を生まれて初めて見た。
緑色の屋根はブリキにペンキを塗って作られているようだ。学校の地理の教科書で目にしたアラブ諸国のモスクは、石造りの白亜の建物だった。それに比べると、このモスクはずいぶんと貧相に見えた。
白塔山と黄河の間の狭い平地に、身を寄せ合うようにして、レンガを積んだ平屋の住居が密集している。その真ん中に緑の屋根のモスクは建っていた。
きっと回族(イスラム教を信仰する中国の少数民族の1つ)の集落だろう。
私の実家は古くからある街道沿いの集落で、村の真ん中には浄土真宗のお寺がある。お寺を中心に身を寄せ合うように、門徒の住居がある。宗教、風土は違えど、その風景に似ていて、親しみを感じた。
白塔山公園を登るときは気が付かなかったが、山を下りて、中山橋のたもとを行き交う人々に目を凝らすと、白い縁無し帽をかぶった人々がいた。椅子に腰掛けた白ひげの老人もいる。回族の人たちだ。日本で住んでいると、イスラム教の風俗に出合う機会がほとんどない。新鮮だった。
集落の中に入って近くでモスクを見てみたかったが、ちょっと近寄り難かった。漠然と「危ないエリア」ではないか?と、足を踏み入れるのをちゅうちょしたのだ。
このモスクのことが気になって、現在の蘭州の情報をグーグルで検索してみた。なんと、白塔山公園のそばに立派な「水上モスク」という寺院が建設されていた。
この付近、30年間できっと開発が進んだはず。回族の人々の暮らしも、経済発展と共にずいぶんと変化したに違いない。