地図のない旅

             (2017、10)
 久しぶりの東京である。
大学を卒業して50周年の同窓会、思えば遠い昔のことになってしまった。
 楽しみな気持ちと何かためらう気持ちで新幹線に乗り、東京駅に着いた。
トイレに行きたくて手近な改札口を出たら、いつもと違う南口だった。
駅員さんにトイレを訪ねたら、「改札の中にあります、外ならここをずーと行って・・・」
やっと探し当てたら行列である。
ああ、さすが東京!

 用を済ませて、まず大丸に行きたいのに、さっぱり場所が分からない。いろんな路線名は表示があるけれど、大丸は書いてない。商業施設の看板はあまり出さないということか。
駅の地図をさがすが、そんなものは見当たらない。スマホのグーグルで探してみたが、地上や地下や二階三階があるので、見方がよく分からない。
地図のない街に迷い込んだようだ。

 地下街をウロウロ相当歩きまわって、やっとたどり着いた。
目的は「佃権」という築地のはんぺん屋さん、主人と来たときは決まって、沢山買い込んでお土産にしていた。
 今回も、東京に着いたら一番に行って病院の職員のお土産にしようと、意気込んでいた。ところが、ないのである。確かこのあたりに・・・と思って探し回ったが見当たらない。
 サービスカウンターで聞くと「もう以前からそのお店はありません」とのこと。
あーあ、がっがり。
いろんな種類の魚のすり身の天ぷらで、めっぽうおいしくて、東京に行くたびに買っていた。それも大量に買うものだから、お店の人も覚えてくれて、「岡山の井上さん、お久しぶり」などと言って喜んでくれていたのに。
 仕方なく「スズヒロ」に変更、これなら岡山にもあるかも・・・

 次は地下鉄で池袋の「熊谷守一美術館」へ行こうと、地下鉄へ。たしか丸の内線と思いつつ、バッグから地下鉄のパスネットというカードを出した。これは東京メトロのプリペイドカードで絵柄が守一の「牝猫」なので気に入って、買っていたものだ。たまに東京へ行っても、持って行くのを忘れて使っていなかったのを思い出して、今日こそはと、持ってきた。ところが通らないのである。ゲートが閉まってしまう。仕方なく係りの人に聞いたら、「これはもう使っていません。残っているなら払い出ししますからあちらの事務室へ」
 あーあ、何もかも変わってしまったなあ、浦島花子のようだ。

 大学に着いたら、明るい武蔵野の林だった周りの樹木が、見上げるほどの大木になっている。
 50年の長さを改めて考えた。
私は成長しただろうか。
この先も私は、地図のない旅を続けていくことになるのだろうか。

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