自分の使い方
お前くらいの成績があれば、その……
看護じゃなくてもいいんじゃないのか?
これはかつて高校の担任に言われた台詞。
これを聞いて、虎に翼風に言うと「はて?」と思ったのを鮮明に覚えている。
高校2年生、わたしはうっかり、理系の特別進学クラスに入っていた。
付属大学よりも、もっと上位の大学を目指すようなクラス。みんな早慶上智、MARCH、院を踏まえた進路を選択するのがデフォルトだった。男の子が30人くらい、女の子が14人のクラスだったから、学歴的なキャリアを求めるのはなおさら。
そんな中、わたしが看護学校にいきたいなんて言うもんだから、担任もびっくりしたんだと思う。
誤解を恐れずにいえば、看護は学業の中でも下のほう、専門学校があるような領域なので、わざわざ頭のいい子がいくようなところではない、という昭和の価値観を引きずってる先生がいても、まぁ無理はない。
現に、その学年の中で他大学の看護学科に入学したのは、わたしひとりだけだった。
700人も同級生がいたのに。
看護系の附属病院のある大学に入ることがわたしの目標だったので
早稲田に受かった
医学部に受かった
国立に受かった
と、3月に同級生が浮かれるなか、わたしはまずは第一関門突破だなくらいの気持ちでいた。看護学科に入っても、単位をとって国家資格も取らないと、看護師にはなれない。そのため、卒業式も割とクールに過ごしていたのを覚えている。
皆は春からのキャンパスライフに心踊っていたのだろうが、わたしはこれから職業訓練と勉強の4年間がはじまる……と、ちょっとだけ憂鬱だったのだ。
実際、看護学科の4年間はキャンパスライフとは程遠く、勉強と試験と実習でヘロヘロだった。
実習では、課題と記録に終われ途中から発熱するのがわたしの決まったパターン。すべての実習に全日参加できたのはひとつかふたつで、同じグループの似たような子と合わせてチーム病弱と呼ばれていた。
出席日数が足りず、補講とレポートでA判定をもらった領域もある。泊まり込みの実習で熱を出し、検温の際にわざと腋窩の浅いところで測り、知らん顔して36.7℃とか書いてたこともあった。
ほんとの体温なんて、みんな知らないほうがいい。
それもこれも、看護師の資格を取るため。
こんなに汎用性の高い資格、ほかにあって?
数年前、ある知人から
あさみさんはいま、たまたま看護という仕事をしているけれど、他の領域でも絶対うまくやれてると思いますよ
と、言われた。同時に、高校の担任に言われたあの台詞が思い起こされた。
似たようなことを言われているはずなのに、後者の台詞を聞いて、わたしは純粋に嬉しいと感じることができた。わたしの能力がもったいないという文脈ではなく、どこでも通用するようなニュアンスで言ってくれたから。
わたしの能力やスキルをどう使うかは
わたしが決めること
今後、もしかしたら看護以外の仕事をやる機会が増えるかもしれないけど
その塩梅や調整の権利は、わたしにある。
他の人からみたら、看護の仕事は低俗で社会的地位の低い仕事かもしれない
看護の仕事なんかより、こっちの仕事のほうがやりがいも社会的意義もお金もいいですよ、なんて言われるかもしれない。
けれども
わたしは看護の仕事に誇りを持っているし
なにより好きで楽しいのだ。
これを他人に否定される筋合いはない。
といったような話を、ここでするつもりなので、よかったらぜひ。