UXライターとはなにか
UXライターです、というと「それはなに」と訊かれることが多い。「どうやったらなれるの」と相談されることも。概論的な日本語の資料は少ないし、自分のためにも書き留めておくことにした。
UXライターはどこにいるのか?
UXライターという職業の人は、日本ではまだそんなに多くない。協会とかもない。公式の資格もない。野良だ。みんな野生のUXライターだ。
デザインの現場と、ゲーム制作現場、スマートスピーカーの会社なんかに生息している。あと事業会社にも。多分。
UXライターになるためには、複数の領域の知識が必要だ。デザインと文章、戦略と文章、エンジニアリングと文章、などなど。いずれにせよ、ライティングの知識はあればあるほどよい。
業務内容も、業界や制作物によってかなりばらつきがある。ゲームのシナリオライティングに近いものもあれば、コピーライティングの亜種を手がけることもある。デザイン業務の一環として作業を進める場合が多い。
共通しているのは、プロダクトやサービスに記されている言葉を専門とするということだけだ。マイクロコピーやディレクトリライティングといったこれらの領域は、かつてエンジニアやデザイナーが手がけていたものだ。いつのまにか「UXライティング」という分野が台頭してきた。
「説明書」が姿を消しつつあるのと並行して、わかりやすい言葉が、あらゆるサービスに求められるようになっている。
UXライターが登場するまでの歴史(浅い)
2000年台初頭までUXライティングの重要性はほとんど認知されていなかった。膨大な画面設計が一通りできてから、最後にライターが召喚されるというのが制作の基本的な流れだった。この頃はみんなソフトをインストールしたら「Readme」とか読んでたよね。
これに反旗を翻したのが、「コンテンツストラテジスト」と呼ばれる人々。情報の戦略を考える専門家たちだ。2009年に、TwitterやLinkedInで情報交換をし合い、「絶対おかしいよね!?」と意気投合。メッセージを発信し始めた、といわれている。
※この部分については、出典記事が削除されていたので、引き続きソースを探している
こうした機運もあってか、2010年に入ると、プロダクトと言葉との関係に変化が起きる。Facebook(現Meta)、shopify、airbnbらがコンテンツストラテジストたちを制作の序盤から参入させるようになった。
具体的なデザインに着手するよりも前に、どんな言葉をどう届けるかを一緒に考えることが、結果的に変な画面を作らないことにつながる、という認識が生まれはじめた。
そこから徐々に、GAFAM的な人々も「UXライター、いるわ」という雰囲気になり、現在、UXライターの雇用は強化傾向にある。
じゃあ、そんな、いまちょっと流行り始めているUXライターって、なにをしているのか?
デザイン業務においてUXライターが担うもの
雇用強化のトレンドとはいえ、日本におけるUXライターの認知は低く、「ライター」として認識されることも多い。だから、プロダクトとかサービスとか、「なにか」をつくるときに「わかりやすい言葉」が必要になると、UXライターが召喚される。
つまり、ある種の制作現場では、UXライターはUIライターになる。
※UI(User Interface、実際にユーザーが触れるデザイン)
でも、これは聞き分けのいいUXライターの場合。意識の高いUXライターを召喚した場合、こうなる。
これをやると制作はメチャクチャになるのだが、けっこう重要なムーブでもある。「ライティングが必要なタイミングで召喚されても手遅れ」なことって、かなりある。悪文が生まれるのには、大人の事情とか、謎の分断とか、伝言ゲームとか、いろんな背景があるから。
プロダクトやサービスが最初に目指していたものまで遡り、「ねじれ」をほどいていくほうが早そうなときは、そうすることもある。
こういうねじれを生まないために、UXライターとして必要なのは、「絶対にイーハトーヴォには行かない」という強い気持ち。そして、チームをイーハトーヴォに導かないよう、制作物の解像度を序盤から高めていく打ち手をたくさん用意しておくこと。もちろん、言葉を主軸におきながら頑張っていく。
「ここにテキストがきます」って書かれているデザインファイルが大量にあったとして、なんのテキストがくるのかをチームの誰もが想像できていないならば、そのプロジェクトはもう、けっこう、手遅れかもしれない。
なんで「UX」ライティングなのか?
「UX(User Experience)」は、国際標準化機構を策定する組織であるISOによれば、以下のように定義されている。
よくわかんないね。よくわかんないんだ。
これ、要は、「なにかを使ったり、使おうとしたときに人が感じたりすること」って意味なんだけど、それってすべてじゃん。言葉がデカすぎるんよ。
とはいえ、ここでは以下を呑み込んでもらえればいいと思う。
つまり、UXライターがUIライターじゃないのは、書かれていることの前後にある、膨大な「書かれていないこと」を設計する責任を負っているから。
じゃあ、前後の情報ってなにか。
たとえば、こういうモーダル画面があったとする。
※モーダル:画面の上にバーンって乗っかってくるやつ。なにかしらの操作を完了しないと消えない
上の画面について指摘できる問題はいくつかありそう。
これらの問題を解消しようと思ったら、以下のようにリライトできる。
良くなったように見える。
たしかに、こういう「UIライティング」に寄せたアプローチで改善できることってたくさんある。でも膨大な「書かれていないこと」を担うならば、この一画面をリライトするなかで、以下の検討をする必要がある。
やることいっぱいあるね。
UXライティングの参考資料
UXライターとはなにかについて、ざっくり紹介した。もう少し深く知りたい人のために、参考資料を以下に紹介する。
Material's Communication Principles:Intro to UX Writing
マテリアルデザインのガイドラインを中心に、UXライティングの手引きをしてくれる無料の資料。英語の場合なので、文法面で全てのメソッドを流用することは難しいが、基本的な考え方についてインストールできる構成になっている。
『ビジネスマンのための新教養 UXライティング』
手っ取り早く事例を集めたい人には最適。すぐに業務に活かせそうな例文が多く、「社内にUXライターがいなくて色々やばい」ときはこれから入るといいと思う。
Strategic Writing for UX: Drive Engagement, Conversion, and Retention With Every Word
我らがOreillyからも出版されている。充実した内容で、具体的な作業に使えるチャートや、文体のトーン&マナーについての分析も豊富。実際のUXライティング業務の中で助けられることが多い。
おわりに
UXライターの歴史は浅い。
もちろん、ハードコアな意味においては、プロダクトという概念が生まれた瞬間から「UXライティング」は存在していた。それでも、「買ったものが時間とともに変化していく」現代において、言葉でやれること/ 言葉でやるべきではないことは、ますます拡がっていくだろう。
日本語でのUXライティングについて、じゅうぶんに活用できるようなメソッドは、まだ完成されているとはいえない。ましてや、XRや空間演出の領域における言葉の役割は、いまなお手探り状態だ。野生だ。
ということで、フリーランスでUXライターを始めようとしている人はAnywhereに片足を突っ込んで一緒にやろ。
「Anywhereはちょっと」という場合は、SNSで仲良くしましょう。
https://twitter.com/asaman_man
https://fedibird.com/@asaman
それでは、よいお年を。
よければアレしてください