ピアノ欲しいんだけど欲しくない日記
ピアノが弾けたら楽しいだろうな、と思ってピアノ的なものを買った。
いま使っているのは、いわゆるMIDIキーボードというやつで、それ単体では音が出ない。弾きたくなったらiPadにつないでアプリを使う。つまりiPadを使って仕事をしている間は弾けない。さあピアノを弾くぞとなったら充電ケーブルを外してMIDIキーボードと接続し、アプリを選んで……という手間が
本物のピアノにはない。
電子ピアノでも何でもだ。音が出るやつはだいたい電源入れっぱなしだから弾くぞと思ったらすぐ弾けるはずだ。なんでMIDIキーボードにしたんだっけ、買った時はいろいろ考えてこれにしたはずなんだが……さっぱりおぼえていない。たぶん安くて嵩張らないとか、その程度の理由だったはずだ。
と、昨日までは思っていた。そう、二胡が来るまでは。
二胡という楽器がある。弦が二本のチェロのような中国の楽器だ。先日これを友人から譲り受けた。ずいぶん昔に買って、音がうまく鳴らず、十五分で飽きて以来押し入れにしまっていたらしい。
Youtubeで調べながら調弦をして、軽く弾いてみた。弓で弾くタイプの弦楽器には、音を出すためのコツがある(子供の頃にバイオリンを習っていたおかげだ)。初めて触った二胡だが、これが華奢な見た目からは想像もつかないくらい馬鹿でかい音が出た。当然ながら家で弾くことはできない、仕事場に持っていき、休憩時間にでも弾こうと思った。
それで、今日だ。11時に到着してちょっと作業をして、二胡を弾き始めて気がついたら14時を回っていた。慌てて仕事をして、しているうちにフワフワしてきて、ちょっとだけと言い訳しながら二胡を弾く。田園春色がなんとなく弾けるような感じになってきた(まだ音が外れたり弓の運びが汚いので見せません聴かせません)。
過集中、とか、トランス状態、とか、いろいろ言い方はあるけれども、これは良くない。たいへんよろしくない。他にもしなきゃいけない大事なことは山ほどあるのだ。だというのに二胡、いまじゃないだろう。
触ればすぐに音が出るのがよくない。もしもピアノがあったなら。ああMIDIキーボードでよかった、音を出すまでに手間のかかる子でよかった。家にピアノなんかあった日には一日中弾いてしまう。ピアノ怖い。
とりあえず目の前の仕事だ、文字を書くことに集中しよう。ああ、でも今日あった出来事だけは、忘れないようにメモをしておこう。二胡、お前の優先順位は申し訳ないがもう少しあとだ。先にやらなきゃいけないことが山のようにある。
というわけでぼくは、今もピアノが欲しいんだけど、ピアノが欲しくない。