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ホノルルマジック

誰が訪れても、ホノルルは特別な場所になると考えてよい。空気が光っている。デューク・カハナモク像も、ハイアットリージェンシーやABCストア、エッグスンシングス、そして、大通りまでもが、きらめいている。光る空気には香水や日焼け止めクリームが香っている。国籍は関係なく、リゾート気分の大人も子供も、リタイアした人々も、みんながそれぞれ、海と空のブルーを背景にした白いビーチを満喫している。ふと疑問に思うのだが、訪れる人々を迎えてくれる人々にとって、ホノルルはどんな街なのだろう。

ホノルルを感じた後、アラフォーの女性2人は、アラモアナへ向かう。そこから52番のバスに乗る。ダウンタウンを抜けて1時間以上バスに揺られていると、広大なパイナップル畑が見えてくる。ドールプランテーションの停留所に着く。少し歩いてビジターセンターに入っていく。
センターの外の席に着く。パイナップル・エクスプレス・トレインという子供用の汽車が走るのが見える。二人のテーブルには、巨大なドールパイナップルアイスクリームが、堂々と並んでいる。パイナップルの形をした大きな貯金箱のようなものがついてきた。

「私、このアイスクリーム、本当に食べたかったんだ。」

背の高い日焼けした女性がそう言って、スプーンを手に取る。

「ユイは、もうハワイに来て、1年経つでしょ。何故、来れなかったの?」

小柄で色白の女性がアイスクリームを口には運びながら、尋ねる。

「だって、仕事が忙しくて、全然自由な時間がないんだから。リサはまだ自由があるでしょ。日本にいた方が楽だったなあ。」

「そもそも、何故、ハワイのワーホリだったの?CDショップで頑張って働いていたのに。」

「ホントはね、どこでも良かったんだ。オーストラリアでもニュージーランドでもどこでも。何もすることがない、というか、何も目的がないというか、日本を出たい気持ちだけがあったから、何も考えず、ハワイの話に乗ったわけ。」

「ちょっと、それ何?すごくない?ねえユイ、早く食べないとアイスクリーム溶けちゃうよ。」

大柄なユイは、身をかがめて慌ててアイスクリームを食べ始める。そして、二人とも、「美味しいね」と言い合いながら、スプーンが止まらなくなる。

スプーンを置いて、ユイが再び話し始める。

「私、昔から何となく生きてきたんだ。高校の時、バレーボールやってたでしょ。本当のことを言うと、別に勝ちたいとも、がんばろうとも思っていなかった。ほかの人とは違うと思うけど。私はただ小学校からバレーを続けてきたから、惰性でやってきただけ。試合に勝って次に繋ごうなんて気持ちは1ミリもなかった。」

「そうだったんだ。そんな風には見えなかったなあ。今、ホノルルのレストランで働いているんでしょ。忙しいみたいだけど、何か良いことはなかった?」

彼女はホノルルのレストランで、フィリピンの男性と知り合っていた。彼女より背が低いが、心が広く、彼女にとても優しかった。彼女のパスタづくりをさりげなく助けてくれたり、声をかけてくれたりした。何気なく生きてきた彼女は、本当に訳が分からないが、その人に、一直線に、告白した。英語が不得意だったので、スマホの翻訳を使ったけれども。彼は「ゆっくりと付き合いましょう。」と答えた。
デートはビーチに行った。彼女自身が、ハワイだからビーチで過ごすんだと、勝手に決めたのだ。実際は、ハワイのデートスポットを知らなかっただけだった。彼女は泳ぎが不得意だが、彼はうまかった。彼女によれば、「彼は、人魚のように、泳ぐ」らしい。人魚って?相当本気で結婚を考えているようだ。

リサは、突然日本を離れた親友を心配してオアフ島まで来たのだが、完全に意表を突かれた。

帰りのバスの中で、彼女は高校時代を思い起こす。
20年前。
女子バレーボールの大会決勝、ゲームポイント。観客席で、彼女は神様に祈っていた。背番号4の、細身で背が高い選手を眼で追いながら。
背番号4は、ライトから強打ではなく、フェイントを仕掛けた。競り合った場面では大きいプレー、つまり、強打が鉄則なのだが。相手は、意外なプレーにうまくレシーブできない。
チームは優勝した。チームメートが喜びを爆発させる中、背番号4は微笑んでコートを去った。

「ユイ、ハワイでも、私にフェイントしたよね?」
リサがユイの方を見ると、彼女は眠っていた。仕事で疲れているのだろう。人魚の彼のことを夢に見ているのかもしれない。

夜のホノルルに戻って、二人は別れた。ユイは「明日からまた仕事だから」と言い残して、カパフル通りのアパートへ帰っていった。
リサは、別行動をした夫が待つホテルへ戻った。少し休んで、夫と街へ出た。夜になった街は、人工の光で、別の顔を見せる。ハワイアンミュージックが流れ、バーベキューの香りが漂い、酔客の歓声が広がっていく。
リサは夫と並んで、人混みを抜けていく。
その時ふと、「今から夫にフェイントを掛けてやろう。意表を突く自分を見せてやろう。」という考えが浮かぶ。こんな風になるのは、ホノルルにいるからなのかもしれない。

Thank you for reading through to the end.  I love Hawaii and people there.

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