真冬の薔薇【ショートショート】
真冬の薔薇。
彼女を初めて見たときそう思った。
凛として、力強く、彼女はステージに立っていた。
地元の小さなライブハウスで、彼女だけがひときわ輝いていた。
やがて彼女はスターダムをかけ上がった。
彼女がそんな脆さを抱えているなんて、誰も知らなかった。
人気絶頂の時、彼女は命を絶った。
彼女の支えがたった一人の男性だったなんて、誰も知らなかった。それすらも噂レベルに等しい。
彼女は幼馴染に認められたくて音楽をやっていたなんて、ファンの誰も信じたくなかった。
幼馴染の結婚を知った数日後、彼女は故郷のダム湖に沈んだようだ。遺体は見つからず、遺書と残された車から自殺と断定された。
数年後、ある地方都市のバーで、偶然隣りに座った女性と少し話をした。ファンでなければ分からなかったろう、彼女の少し特徴ある笑い方。
僕は気づかなかったふりをして別れた。
バーを一緒に出て、彼女は反対方向へ歩いていく。ヒールの音がビル街に響く。追いかけなかった。
僕は彼女の幸せを祈った。