君に贈る火星の【ショートショート】
「いつか君にあの星を贈るよ」そう言ってあなたの指差した先には、赫く光る火星が。「ありがとう、楽しみにしてるよ」私はそう言ってあなたの手をぎゅっと握った。
あれから20年目の結婚記念日。ビロードのような 夜空の見えるレストラン。キャンドルと月明かりと少しの間接照明。
私達は夜空のように濃い色のワインで乾杯をした。宇宙旅行の荷造りをするようなウキウキした気分で前菜を食べ、天の川を味わうようにスープを飲み、見たこともない星の料理のようなメインを食べ、星のホテルでゆったりするようにデザートを食べた。
そのあと、あなたの取り出した小箱には、あの日見た、赫く光る火星が。ペンダントになってそっと収まっていた。
私にそれを着けながらあなたは言った。「やっと約束を叶えられたよ」
私はそっとそれを手に取って言った。「アイシテル」
ねえあなた。私はあなたが火星をくれなくても幸せだったのよ。
でもあなた。あなたがこれをくれる為にとても尽くしてくれたことを知ってるから。
あの赫く光る星は、これからずっと、あなたとともに、私の胸にある。