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そばまつり開催(ショートショート)
「お、なんかイベントやってるじゃないか」
私は実は蕎麦好きで、この蕎麦店には月2回は最低でも来る。
それでたまたま来てみたら、何やら「そばまつり開催」とイベントののぼりが立っているのだ
私は意気揚々と店へ入っていった。
「こんにちはー」
常連だからか店主から声をかけてくれる。実はここの店主は若い。とても人懐こい。まだ四十前くらいではなかろうか。蕎麦屋というと、こう、年配の職人が静かに打って、と私が勝手にイメージしていただけなのだが。
席につき、イベント内容を探す‥‥しかし書いていない。なぜだ?のぼりまで立てているのに?
ここの店主は誠実で、客寄せにあんなのぼりを立てるとは思えない。
腑に落ちないながら、好物のざるそばを注文する。
いつもながら素早く出てくる。もちろん手抜きなどでなく、できる限り早く出してくれるのだ。
ん?私は気づいた。
そばつゆの香りがいつもと違うのだ。
芳しくもまろやか、魚介だしの香りはしながらも臭みはまるでない。
そばをつけてひとすすりする。これは‥‥旨い!いつも旨いがこのつゆは格段にうまい!
「ねえー、そばまつりって書いてあったから入ったけど‥どのへんがまつりなのかしらね」
隣の席の客がひそひそと話しているのが聞こえた。
「店長さん!」
私は旨さに感極まって呼んでしまった。
「はい!」
店長さんは忙しい中にこにこしながら近づいてくる。
「これ、めんつゆ、いつもと違いますよね」
すると店長の瞳が輝く。
「気づいていただけましたか!知人からいいアゴが手に入ったので、それをふんだんに使っているんです!」
「だからそばまつり!」
「はい!」
おいしさのあまり興奮気味にしゃべったので、他のお客さんにも聞こえたらしい。
ほおー、と感心する声やら、そうだったのねー、などと聞こえてきた。
私は満足してそば店を後にした。
野暮になるので、めんつゆが特別なんだという注釈をつけたらどうだとは言わなかった。
ただ、帰宅してから、Googleの口コミへ追記した。
「そばまつりとのぼりが上がっているときは、ぜひあのつゆを賞味頂きたい」