たそがれのお菓子やさん【ファンタジー ショートショート】
そのお菓子屋さんは、ときどきやってくる。
ふかふかした三毛猫さんが、お菓子のワゴンを押してくる。三毛猫さんは手足がちっちゃくかわいらしくて、てちてちと歩いてくる。
ワゴンは薄いピンク色で、前面にはステンシルで白い文字がtwilightと書いてある。白いスカラップのお屋根が付いていて、パンチングされてレースみたいになっている。夕日を浴びながら三毛猫さんはてちてちと歩く。
公園に着くと三毛猫さんはワゴンをおろし、ストッパーをかける。そして、天板の下裏側の引き出しからゴソゴソとお菓子を出し始める。
ピンクの天板の上に並べられるだけお菓子を並べていく。クッキーだけでも数種類。ナッツの、ハート型の、ココア味の、いちごジャムの乗ったの、アイスボックスクッキー。猫さんらしくラングドシャも。ラングドシャは猫の舌という意味だ。それからマカロン、カヌレ、ガレット、フィナンシェ、マドレーヌ、ダコワーズ、フロランタン、リーフパイ。
最初のお客さんはくまのお父さん。青い背広に赤いネクタイをしめている。
「娘のお土産にしたいんだが」
三毛猫さんはピンク色のハート型のクッキーをそっと指し示す。
「よし、それを頂こう。妻にはマドレーヌを」
三毛猫さんは猫さんの顔をかたどった茶色い紙袋へそれを詰めると、袋のお耳の部分にピンクのリボンを結んでくまのお父さんに渡すと、ぺこっと頭を下げる。
次のお客さんはキリンのお兄さん。長い首を曲げて並んだお菓子をのぞきこんでいる。
「これからデートなんだ」
お兄さんは嬉しそうに言い、ダンガリーシャツの襟をぴんと引っ張ってみる。
三毛猫さんはそっと、女の子人気ナンバーワンのマカロンを指し示す。
「よおし、マカロンと…カヌレも流行ってるよね、それください」
三毛猫さんはまたまた猫型袋に入れ、今度は赤いリボンをつけた。
次のお客さんはミニチュアダックスの女の子。
「子猫のみみちゃんに持って行ってあげるんだ」
三毛猫さんはラングドシャをそっと差し出す。
「わ、ほんとだ、みみちゃんのしたみたいでかわいい」
三毛猫さんは猫型袋に詰めるとオレンジのリボンをつけた。
「ミケちゃん」
少し離れたところから声をかけながら白猫さんが歩いてきた。三毛猫さんも手を振り返している。
「今日も沢山売れたね」
三毛猫さんはこくんとうなづく。
「お母さんフロランタンとリーフパイ食べたいな。ミケちゃんはダコワーズ?」
三毛猫さんはこくんとうなづく。
白猫さんは三毛猫さんにお金を払い、三毛猫さんは猫型袋にお菓子を詰める。最後に白猫シールをペタンと貼る。
「お家帰って紅茶いれてお菓子食べようか」
三毛猫さんはこくんとうなづく。
2人で店じまいをして、三毛猫さんは、またてちてちとワゴンを押しておうちへ帰る。
空には細い三日月が出ていた。