押し売り「ショートショート」
「押し売り〜、押し売りだよ〜」
昼ご飯を食べて片付けていたら、外からこんな声が聞こえてきた。
押し売り?ああ、なんか押してお菓子とか売ってるやつかしら。若いから押し売りっていう言葉、勘違いしてるのね。
ピンポーン。
あら?声が止まってる。さっきの押し売りさん、うちに来たのかしら。
「はいはーい」
インターフォンに出る。
「あ、お忙しいところ申し訳ございません!僕、お菓子をこのあたり売らせてもらってまして。よかったらちょっとご覧になるだけでも、いかがでしょうか?」
あら。意外にきちんとしてるのね。見るくらいなら‥見てあげようかしら。
玄関のドアを開けると、爽やか好青年。
「わぁ、ありがとうございます!なかなか見てもいただけなくてぇ。本当に嬉しいです」
「あらあら暑いのにそれは大変ね」
あら、ちょっと好みの可愛い子ねえ。私の好きなグループのあの子に似てる。
「‥それでですねえ‥」
「あらあ、やだあ」
もう30分は話している。イケメンと話すのは楽しい。楽しいけれど心苦しくなってくる。だって買うつもりはないし‥。
「それでですねぇ、そろそろ買っていただけません?」
「‥‥‥は?」
唐突な言葉に、私は絶句した。
「僕みたいなイケメンと話せて楽しかったでしょう、奥さん。‥買っといたほうがいいと思いますけどねぇ」
やだ、何?急に高圧的に‥。
「怖い人きちゃいますよ」
青年はニコッと笑った。
「わ、わかったわ。チーズケーキ頂こう‥かしら」
「えー、僕、奥さんと30分も話したんですよぉ。たったそれだけですかぁ?」
「え、そ、そんな‥」
「ありがとうございました〜」
青年は笑顔で去っていった。
結局私は彼の押していたカートの中身全て買うことになった。しめて一万五千円。
財布の中にお金があったからまだよかったものの‥足りなかったら‥と考えると怖かった。
一万五千円?ふと気づいた。
それくらいの金額なら、財布に持っている人が多いだろう。
もしやうちを狙って、最初から全部買わせるつもりで来たのかも‥。
そして、彼は押し売りという言葉の意味を使い間違えていないなあと思った。