ビー玉の宇宙【ファンタジー ショートショート】
月子は病弱だった。
よく風邪をひいては、奥の六畳間の布団に寝かされていた。
兄弟たちが表や庭で遊ぶ声が聞こえて寂しく感じながら、ポツンとひとり、大人しく横になっていた。
風邪をひいた時は、食欲のない月子のために、母は桃の缶詰を買ってきて食べさせてくれた。それだけが病気の時の楽しみだった。
病気の時は、大好きな本も取り上げられた。だからぼんやりと天井のシミを眺めていた。それは時に西洋人の男性の顔に見えた。そしてそれがニヤリと笑いかけてくるような気がして、薄気味悪くなってくるのだった。
夏は掃き出しの窓を開けるので、庭に咲くテッセンやノウゼンカヅラを眺めたりした。
今日も今年に入って何度目かの風邪をひいていた。熱が下がったので少し起き上がりたくなった。体を起こしてぼうっと床を見つめていると、ビー玉が3つ転がっていた。
手慰みにと拾い上げ弄んだ。手の中で、ビー玉はひんやりとして、熱っぽい月子には気持ちよかった。
ふと思いつき、横になった。ビー玉を顔の上に持ってきて、光を透かして眺める。
オレンジの帯の入ったビー玉は、見る角度によって帯の形が違って見えて面白かった。
今度は水色の帯のやつ。やっぱり帯が立体的に見えて不思議だ。
そして今度は特別なやつ。藍色一色のビー玉だ。月子は帯が入っていない、一色だけのビー玉を、特別なビー玉だと思っていた。
そっと覗いてみる。宇宙だ。気泡は藍色の宇宙に浮かぶ無数の惑星。
気付くと、月子自身が藍色の世界にいた。月子は宇宙空間を漂っていたのだった。ふわふわゆらゆら。息は苦しくない。ほら、こんなにうまく泳げるんだから。スイスイと惑星から惑星へと泳ぎ行く。いつも体育は休んでいたから、こんなに上手く泳げるのを誰かに見せたかった。
「月子、お昼ご飯にしようか」
母に声をかけられ、月子は慌ててビー玉を落としてしまった。
気がつくと、彼女はいつもの六畳間の布団に寝ているのだった。
ああ、やっぱりこれが現実だ。私は病弱なまま。月子は寂しくなった。
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子供の頃のことを思い出して書いてみました。
私は本の虫だったんですが、風邪ひいたときは、月子と同じように取り上げられてました。
そんなとき、床に転がっているビー玉を見つけて覗いたのが、このお話の元になっています。
月子を元気にしてハッピーエンドにしてあげたかったのてすが、うまくできず…。
きっと大きくなったら元気になっていると思います☺
東海は梅雨入りしたようで、部屋干し用の洗剤と漂白剤と柔軟剤を買ってきました☔
これで部屋干し臭が軽減されるといいのですが…。